09 主張

翌日。早速、ショッピングモールのアクセサリーショップへ向かった。クリスマスシーズンなので、前来た時とは違うアクセサリーがたくさん店頭に出ていた。

ユーリ「悔しいですけど、すごくきれいです。この細かい装飾はどうやって施しているんでしょう?」

ユーリ君はいつのまにやら手に入れたルーペで商品を細かく見ていた。

キリカ「うわあっ!!そういうことは買ってからにしてよ!目立つから!」

ユーリ「!?・・・。でも、買っちゃいけないんでしょう?」

キリカ「うぅ・・・!!」

買ったとして私たちはいずれルカへ帰る身。持ち帰ることはできない。すると、やはり目立ってしまい店員さんがやってきた。

店員「しっかり見ていただいて大丈夫ですよ。」

キリカ「!!・・・す、すみません・・・。」

ユーリ「本当ですか!?ありがとうございます!」

ユーリ君は店員さんの厚意も理解せず、ルーペでアクセサリーを眺め出した。はあ・・・。

店員「ふふっ!今日はデートですか?」

キリカ「!?・・・え、あ、まあ・・・。」

恥ずかしかったのと、目立ってはいけない気持ち混ざり合い、曖昧に答える。もう一人のユーリ君はアクセサリーに興味はないって話だし、大丈夫だよね・・・。

店員「可愛い彼氏さんですね!」

キリカ「!?・・・あ、ありがとうございます・・・。」

照れながら返すと、後ろからユーリ君が突っ込む。

ユーリ「違います!夫です!」

店員「えっ!!?」

キリカ「ユーリ君!!」

私は『余計なことを言うな!』と言わんばかりにユーリ君をにらむ。さすがのユーリ君も、まずいことを言ったと気づいたみたいだ。

キリカ「気持ちの上では『夫』・・・そうだよね?」

ユーリ「!?・・・は、はい・・・。」

店員「ふふふっ!仲がいいんですね!うらやましいですぅ!ゆっくりご覧になってくださいね!」

キリカ「はーい!」

店員さんが離れたのを確認した後、ユーリ君に小声で忠告した。

キリカ「バルでは彼氏にしておかないとダメだよ!前も話したよね!?」

ユーリ「!?・・・す、すみません・・・。もうそろそろいいのかなって・・・。」

キリカ「ダメ!バルの男性は、18歳以上じゃないと結婚できないんだから。」

ユーリ「うぅ・・・!!・・・そんなに僕、大人っぽくみえないですか?ハルキさんやジンさんには敵いませんけど・・・身長だって伸びてるんですよ!?」

キリカ「身長は関係ない。目立った行動をとるのが問題なの!」

ユーリ「!!・・・す、すみません・・・。」

ちょっと言い過ぎたかな?ユーリ君はルーペをポケットにしまい、俯いてしまった。私だって怒りたくて怒ってるわけじゃないんだけどなあ・・・。

キリカ「またユーリ君と一緒に来たいから言ってるんだからね?」

ユーリ「!!?・・・。はい!」

嘘でしょと思えるくらい単純でありがたい。みるみるうちに彼の表情が晴れやかになっていく。

キリカ「ちょっとお手洗いに行きたいから、ユーリ君はここで待ってて!」

ユーリ「一人で大丈夫ですか!?」

キリカ「治安がいいから平気。あっ!お願いだから、その店から動かないでね?」

ユーリ「!?・・・は、はい!」

一人で見ていれば、しゃべらないからボロもでにくいだろう。私は気持ちゆっくりめでトイレへ向かった。

 

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08 ネバーランド

翌朝、私とユーリ君はこっそり占術の間へ行き、ワタリさんの指示に従い、バルへ転送された。その後、銀河研究センターからスニケットの車でいつも使っているホテルへ向かった。ユーリ君はまるで新作のアクセサリーを見るかのように、街のイルミネーションに心を躍らせていた。

ユーリ「すごい数の電飾ですね!ルカでは考えられません!!」

キリカ「そうだね。」

私は、光の小精霊たちで灯される優しい感じの光の方が好きだけどなあ・・・。そう思ってしまうのも見慣れているせいもあるかもしれない。

スニケット「年末で混雑してるところも多いから、はしゃいで目立った行動とるんじゃねーぞ!」

ユーリ「大丈夫ですよ!バルへ来るのはこれで4回目・・・任せてください!」

スニケット「ほら、もう調子に乗ってやがる!ちゃんと見張ってろよ、オ・ク・サ・マ!」

キリカ「!?・・・うるさい!わ、分かってるよ!」

奥様とからかわれ、苛立って返した。確かにスニケットの言う通り、ユーリ君の行動は目立つ。くれぐれもワタリさんや銀河研究センターの人たちに迷惑がかからないようにしないと・・・。

信号待ちしていると、街の電光掲示板にニュースが流れていた。『ネバーランドのユーザー数が国内人口の半数を上回る。加速する切り替え自殺に政府は罰則を検討。』と出ている。

キリカ「ネバーランド?」

スニケット「ああ・・・生命保険会社が運営してる脳ゲーな。脳をデジタル化して、死後も生きられるっていう・・・。」

ユーリ「!!?・・・。死後も・・・生きられる・・・?霊魂の状態でも、記憶を保持してさまよえる・・・ということでしょうか?」

スニケット「デジタル・・・いや、お前にっても通じないか。要するにだ!身体はいつか朽ちちまうだろ?だから、新しい身体に記憶を移して生き続けましょうってことだ。」

ユーリ「!!?・・・新しい身体って・・・どこから用意するんですか!?」

スニケット「例えだ、例え!!面倒くせなあ・・・デジタルをどう説明すりゃいんだよ!」

ユーリ「でじたる・・・。」

キリカ「加速する切り替え自殺って何?昔、子供が脳ゲーをやって現実とゲームの区別がつかなくて・・・みたいな?」

スニケット「違う。このネバーランドっていう脳ゲーは、ゲーム中はAIが現実(リアル)を代行するんだよ。でも、現実(リアル)をAIに乗っ取られる危険性があることから、政府はゲームに切り替えられるのは死後のみと発表した。それによって、AIに乗っ取られる心配はなくなったけど、ゲームをやりたくて自殺する奴らが後を絶たないってわけさ。」

死んだらゲームの世界へ行けるなんて、死にたいと思っている人には甘い誘い文句でしかないもんね・・・。バルはどんどん現実とゲームの境界線がなくなっていってる気がする・・・。

ユーリ「あの・・・『えーあい』は霊獣みたいなものなんでしょうか?」

スニケット「・・・・・・・。俺は知らんぞ。」

面倒くさいことが嫌いなスニケットは、ユーリ君の疑問から逃げ出した。私もどう説明していいか分からいのだが・・・。

キリカ「少し似てるかもね。自分以外に身体を乗っ取られてる危険性がある・・・という点に関しては。」

ユーリ「!!・・・。『えーあい』も恐ろしい存在なんですね・・・。」

キリカ「うん・・・。」

これからバルはどうなっていってしまうのだろう・・・。

 

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07 将来

夕食後、お風呂に入って部屋に戻ると、予想通りユーリ君が抱きついてきた。

キリカ「今日は抱きつきすぎじゃない?」

ユーリ「これでも足りないくらいだよ。」

キリカ「・・・・・・。」

可愛い・・・。何も言い返さず、ユーリ君の胸に身体を預けた。ちょっと離れていただけなのに、泣きそうな顔をして寂しがってくれる彼が好きだ。

ユーリ「キリカ・・・。」

名前を呼ぶ声はすでに息苦しそうで、引きつけられるように唇を重ねた。私もしたかった。ジンに無理やり連れてかれたといえど、ユーリ君が他の女の子と楽しそうに話してたんじゃないかと思うと、やきもちを焼かずにはいられない。

キリカ「今日は・・・話しただけ?」

ユーリ「ん?」

キリカ「ジンと行ったんでしょ?合コンに・・・。」

ユーリ「!?・・・もう絶対行かない!ジンさんがキリカのためだって言うから、僕は・・・。」

キリカ「!!?・・・。」

その言葉だけで、嫉妬心が安堵に変わる。私は彼が話すのを制すようにキスした。

ユーリ「!?・・・。」

キリカ「ユーリ、好きだよ。」

ユーリ「!!・・・。」

すると、いきなりユーリ君は私の身体を抱きかかえた。お姫様抱っこされてるみたい・・・というか、されてる・・・!?あまりにも突然のことで言葉が出ない。

ユーリ「続きはベッドでしよう?」

キリカ「!!・・・。」

恥ずかしくて、目をつぶりながら何度も頷くと、額にキスされた。突然どうしたの、ユーリ君・・・!!優しくベッドに寝かされると、彼も流れ込むように横になって、唇も自然と重なる。私も応えるように、彼の髪を撫でる。

ユーリ「はあ、んんっ・・・キリカ・・・!!」

ユーリ君は髪を撫でられると、息苦しそうにしながら夢中でキスをする。この声と仕草に何度理性を奪われたことか・・・。

ユーリ「キリカ・・・。」

気になることが頭をよぎったのか、ユーリ君は急に不安そうに名前を呼ぶ。

キリカ「ん?」

ユーリ「僕は・・・このままでいいと思う?」

キリカ「どうしたの、急に・・・。」

ユーリ「ジンさんに言われたんだ。16になるんだから、夫としてキリカの将来も考えていかないと・・・って。」

キリカ「!?・・・。」

今になってジンが何の心配をしているのか分かった。バルと違い、ルカでは10代後半から20代前半で出産することが多いらしい。さらに、ルカの女性は子供を授かりたいという意識が強いため、ジンは私も例外ではないと思ったのだろう。

キリカ「慌てなくてもいいと思う。」

ユーリ「え!?」

キリカ「私は今のままで十分幸せだし、ユーリの助けが欲しいときはちゃんと言うから。」

ユーリ「!!・・・キリカ!!」

嬉しそうに擦り寄ってくる彼に、私も応えるように髪を撫でた。もう少し・・・このままの関係でもいいかな?

 

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06 支度

ユーリ君とジンがマイラスへやってきたのは、夕刻で、ちょうどその頃、私はエレナさんとキッチンで夕食の準備をしていた。

ユーリ「キリカさん!!ごめんなさい!!僕はキリカさんがいないと生きていけませんから!!」

キリカ「うわっ!!」

ユーリ君は泣きながら、背後から抱きついた。ここまで情緒不安定だと、もう人前だろうが、なんだろうが関係ない。

ジン「こいつ、走って帰るとか言うんだぜ?おかげでこっちまでくたくただよ!」

キリカ「走って帰って来たんだ・・・。」

エレナ「ふふっ!ユーリ様はキリカ様と一緒じゃないと落ち着かないんですよね。」

ユーリ「!!・・・そうなんです!それなのに・・・ジンさんが僕をいかがわしいお店に連れて行って、キリカさんとの関係を壊そうとして・・・!!」

エレナ「まあ・・・!!」

ジン「ちょっと待て!!いかがわしいお店ってなんだよ!!普通のレストランだろ!!」

ユーリ「いかがわしいお店でした!!でなければ、あんなにたくさんの女性と食事するわけありません!!」

キリカ「・・・・・・・。」

十中八九、合コンだ。何を考えているんだか・・・。

キリカ「人の夫を合コンに連れていくなんてどういうつもり!?」

ユーリ「そうですよ!僕はキリカさんの夫なんですからね!」

怒りながらも、ユーリ君の顔は緩んでいる。私に『夫』と言ってもらえて喜んでいるに違いない。ジンは頭をかきながら、面倒くさそうに答える。

ジン「あー、無断なのは悪かったよ。だがな、こいつは女を知らなすぎる!」

キリカ「!?・・・知らなすぎるって・・・私も一応女なんだけど!?」

ジン「あー!ややこしいなあ・・・そういう意味じゃなくてだな・・・!!」

ジンがしどろもどろになっていると、エレナさんが鍋に火をかけた。

エレナ「キリカ様、夕食が遅くなってしまいます。続きを始めましょう。」

キリカ「あっ!はい!」

ジン「ほら、ユーリ、行くぞ!」

ジンはユーリ君を急かすように肩をたたき、彼はなごり惜しそうに私から離れ、小さく手を振った。私は照れくさくて、小さく頷いて返事した。そんなやり取りを見たのか、エレナさんは微笑ましそうに話す。

エレナ「キリカ様は、今のユーリ様で十分なんですよね。」

キリカ「えっ!?・・・うん、まあ・・・。」

本音を言えばその通りだが、即答するとのろけてるみたいなので濁した。

エレナ「ジン様はジン様で、キリカ様を案じておられるのです。悪く思わないであげてくださいね。」

キリカ「!?・・・う、うん・・・。」

私も本気で怒っているわけじゃないんだけど・・・。まるで、エレナさんはジンが何を心配してるのか知っているようだ。

キリカ「エレナさんは、ジンの良き理解者だね!」

エレナ「ふふっ・・あまりにも誤解されやすいので見ていられないだけですよ。」

エレナさんはそう言って、スープの味の最終確認をしていた。エレナさんとジンが結婚したら、いい夫婦になるんだろうなあ・・・。でも、ジンには、アンチルカの暗部に所属し、精霊使いの命を奪っていたという償いきれない過去がある。それもあって、ジンは自分が幸せになることから一線引いている部分はあると思う。現に、女好きなのに誰とも付き合わないし・・・。

エレナ「キリカ様、食器の準備をお願いしてもいいですか?」

キリカ「!?・・・はい!」

いけない、いけない!妄想を断ち切り、慌ててスープ皿を並べた。

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05 おばあちゃん

おばあちゃんの自室へ行くと、体調が悪いと聞いていたが、いつも通りの服装で椅子に座っていた。テーブルには小鳥のエサが置いてあり、数匹の小鳥がエサをつついている。

キリカ「おばあちゃん、ただいま帰りました。」

トキ「おやおや、しばらくだったね。」

おばあちゃんはそう言いながら、椅子から立とうとしたので制した。

キリカ「そのままで大丈夫だから。」

トキ「!?・・・。エレナから何か聞いたのかい。」

キリカ「!!・・・。聞かなくても分かるよ。急にエレナさんしか占術しなくなったら・・・!!」

トキ「・・・・。それでわざわざ帰ってきたのかい?」

キリカ「!!?・・・。」

この質問は『うん』と答えてはいけない。答えれば、おばあちゃんは私を叱り、病状を隠せなかった自分を責めるだろう。

キリカ「ううん。ユーリの仕事の都合で。」

トキ「・・・・・・。そうかい。」

少し間があったが、おばあちゃんは安堵して外を眺めた。

トキ「小精霊は近くにいるかい?」

キリカ「!?・・・うん。すぐそこに。」

私は庭の木々にいた緑の小精霊を手招きするように呼んだ。緑の小精霊はすぐにやってきて、おばあちゃんを見つめていた。

トキ「今、どこにいるのかね?」

キリカ「目の前だよ。ここ。」

小精霊に頭を撫でるように手を伸ばすと、おばあちゃんと小精霊の視線が合った。

トキ「しばらくここにいるよう頼んでくれないかい?」

キリカ「!?・・・う、うん・・・。」

おばあちゃんも小精霊に会いたかったんだと思うと、嬉しいな。占術師をやってるんだもんね・・・興味ないわけないよね!

トキ「少し横になるから、一人にしておくれ。」

キリカ「あっ、うん!」

私は緑の小精霊に軽く目で挨拶して、部屋を出た。

 

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04 ガールズトーク

ジンとユーリ君と別れ、ネルさんと二人で早速マイラスへ向かった。お父様(ユーリの父)にも挨拶したかったが、やっぱり貿易に出ているらしい。相変わらず忙しいお人だ。

マイラスへ着くと、小精霊たちが一気に駆け寄ってきた。

風の小精霊「キリカ、おかえりなのねん!!」

緑の小精霊「久しぶりのマイラス、ゆっくりしていくのね!」

キリカ「ありがとう!」

ネル「!?・・・あっ、精霊?」

キリカ「うん。みんな、おかえりって言ってくれてる。」

ネル「キリカちゃんは精霊使いの鏡ね。最初に出会ったときは不安でしかなかったのに、すっかり頼もしくなっちゃって・・・。」

キリカ「えへへっ・・・。」

自分でもびっくりするぐらい成長したと思ってる。いきなりルカに送り込まれ、精霊使いになれと言われてから1年半で、こうも人は変われるんだとも・・・。

小精霊たちと軽く会話を楽しんだ後、お屋敷へ向かった。その途中も、私の顔を覚えている住人たちが声をかけてきてくれる。フレイブリースに移り住んでけっこう経つけど、ルカでの私の故郷はこれからもずっとマイラスなんだと思う。

お屋敷に着くと、エレナさんがいた。エレナさんは私と目が合うと、深くお辞儀した。

キリカ「エレナさん、ただいま!」

エレナ「おかえりなさいませ、キリカ様、ネル様。ユーリ様はご一緒ではないのですか?」

キリカ「ジンと一緒に後から来ると思うよ。」

エレナ「ふふっ!そうなんですね。たまには女同士の方が会話が弾みますものね!」

キリカ「そうなんですよ!」

言われてみれば、ガールズトーク久しぶりかも!楽しい・・・!!

ネル「他の使い手(精霊使い)も屋敷に?」

エレナ「カナメ様とシュウ様は巡礼中です。」

ネル「ふーん・・・。」

キリカ「どうかした?」

ネル「警備が手薄になってないか気になってね。まあ、人の精霊騒動が収束して以来ルカも平和になってきたけど・・・。」

キリカ「・・・・・・・・・。」

ネルさんは、まだアンチルカに脅かされていた頃の意識が根強いようだ。

人の精霊騒動が収束後、私はフレイブリースへ移り住み、引き継ぐ形でカナメさんがマイラスの精霊使いになった。当初、私とカナメさんの二人体制で加護契約を行っていく予定だったが、嬉しいことに精霊使いの素質を持ったシュウ君がマイラスへやってきたのだ。14歳の少々変わった子だが、精霊使いとしてはとても優秀だと、カナメさんはぼやきながら言っていたのを思い出した。今日会えるの、ちょっと楽しみにしてたんだけどなあ・・・。

エレナ「カナメ様にも、シュウ様にも常時2人の護衛がついていらっしゃいます。キリカ様の時のようなことはありませんよ。」

キリカ「ははっ・・・。」

私のときは、最初ジン一人だったからね・・・。生きてるから笑い話にできるけど、九死に一生みたいな場面が何度遭ったことか・・・。

エレナ「キリカ様は、先にトキ様にご挨拶を。ネル様は私が大広間へご案内しますね。」

キリカ「はい!」

エレナさんに促され、私はおばあちゃんのいる自室へ向かった。

 

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03 出迎え

リーネガイルの港に着き、船を下りようとしていると、下でジンとネルさんが大きく手を振っているのが見えた。

キリカ「ジーン、ネルさーん!!」

ユーリ「ただいま戻りました!」

そう二人で元気よく答えると、ジンとネルさんは顔を見合わせて笑っていた。小走りで二人の元へ向かい、ユーリ君はジンの元へ、私は嬉しい衝動を抑えられずネルさんに抱きついた。

キリカ「ネルさん、ただいま!」

ネル「おかえり~!元気そうで何よりだわ!」

ジン「キリカちゃーん、ジンお兄さんにもそのただいまちょうだい!」

ユーリ「ジンさん、ただいまです!!」

そう言って、ユーリ君がジンさんに抱きついた。

ジン「お前のじゃねーよ!」

ユーリ「ふふっ!でも、僕とキリカさん、毎日抱き合ってますので間接的に抱き合っているようなものですよ!」

キリカ「!!?・・・。」

抱き合ってるって・・・!!

ジン「毎日・・・。」

ネル「抱き合ってるだって・・・!?」

ジン「おい、ユーリ!まさか、お前、移動中に・・・!!」

キリカ「うわああああっ!!違うから、違うから!!」

ユーリ君の『抱き合ってる』は、本当に純粋な『抱き合ってる』なんだ。

ユーリ「違わないですよ!僕たち、毎日抱き合ってるじゃないですか、ほら!」

キリカ「!!?・・・。」

人前は無理と思ったが、これで疑いが晴れるならと思い、ユーリ君の抱擁に堪える。すると、ジンとネルさんは『あー』と呆れんばかりの声を上げた。

ネル「今年で16になる男とは思えないわね・・・。」

ジン「この調子だと、前に話してたキス以上の関係になったとかいうのも嘘くさいな。」

ユーリ「嘘じゃないですよ!!僕は、ついにキリカさんの服を・・・!!」

キリカ「うわあああああああっ!!」

私が大声を張り上げると、さすがのユーリ君も会話を止める。信じられない・・・!!そういうことって、人に話したりするものじゃないでしょ!?

キリカ「ユーリ君のバカッ!!最低っ!!」

ユーリ「!!?・・・。」

キリカ「ネルさん、行こっ!!」

ネル「ふふっ!んじゃ、ちょっくら奥様をお借りするね!」

ユーリ「うわああああっ!!行かないでください、キリカさーーーん!!」

ユーリ君の止める声にも動じることなく、私はネルさんとリーネガイルの繁華街へ歩いて行った。ちょっとは反省してよ、もう・・・。

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02 潮風

ワタリさんともう一人のユーリ君に事情を説明し、12月の冬休みに合わせて入れ替わることになった。もう一人の私が受験生なので心配してたが、もう一人のユーリ君は『大事な時期ではありますが、後で知ったらもう一人のキリカさんは悲しむと思います。』と言ってくれたんだ。私も同じ気持ちだ。

フレイブリースの海の区からリーネガイル行きの船に乗り、3日。私は船の手すりを掴み、同じ方向を見させられていた。

ユーリ「そのまま、じっとしててくださいね!」

キリカ「う、うん・・・。」

急にユーリ君に似顔絵を描きたいと言われ、付き合うことになったのだ。この状況を楽しんでるノノカはお腹を抱えて笑いっぱなしだ。

ノノカ「ついに絵を描きだしちゃうとは・・・ユーリのキリカ好きも相当だね!」

キリカ「もー!笑い過ぎ!」

ノノカ「そのうち、家中に絵を飾りだして『船に乗ってるキリカさん、ただいま!』とか言い出して・・・!!」

キリカ「絶対にさせないから!!」

ユーリ「ノノカさん!キリカさんを怒らせないでください!表情が変わっちゃうでしょう!?」

ノノカ「はーい、はいはいはーい!!」

キリカ「ふふっ!」

ユーリ君とノノカの噛み合ってない掛け合いはいつ見ても面白い。

ユーリ「!!・・・キリカさん、今の笑った顔すごくいいです!もっとください!!」

キリカ「!!?・・・。」

ノノカ「きゃはははははっ!!ごめっ、もう無理!」

ノノカは笑い過ぎてお腹が痛いのか、上空に勢いよく飛んで行った。笑い過ぎでしょ、もう・・・。

キリカ「さっき、どうしてノノカと話してるって分かったの?」

ユーリ「表情と話し方でなんとなく分かりますよ。見えない分、知りたい気持ちが強いのかもしれません。」

ユーリ君は筆を止めることなくサラッと言ったが、私はドキッとした。潮風で、彼の髪とイヤリングが揺れる。ユーリ君は今度の誕生日で16歳・・・そのせいか妙に大人っぽさを感じる。そういえば、身長も出会った頃に比べるとかなり伸びたような・・・。

ユーリ「その表情好きです・・・。」

キリカ「!!?・・・。」

ユーリ君はスケッチブックを閉じて駆け寄り、私の手を握った。

ユーリ「今日はもう・・・船室に戻りませんか?」

キリカ「えっ!?絵は!?」

ユーリ「!!?・・・。仕上げてしまいたい気持ちもあるんですけど・・・気持ちを抑えられなくて・・・。」

キリカ「!!・・・。」

彼の高揚が伝染したように、息苦しくなる。ユーリ君は私の恥ずかしがってる表情が好きだというけど、私はそうやって言ってくれるときのユーリ君の表情が好き。でも・・・。

キリカ「絵は今しか描けないよ?」

ユーリ「!?・・・。」

ランプの光だけでやるのは非効率だ。それに・・・そう言っておかないと、ユーリ君は『絵はいいからずっと部屋にいよう』と言い出しかねない。ここは妻として、うまく夫を転がさないと・・・。

ユーリ「そうですけど・・・。」

ユーリ君は今にも泣きそうな表情をしながら俯き、力強く手を握る。ユーリ君は本当にズルい・・・。私の弱いとこ、全部知ってる。

ユーリ「!!?・・・。」

思いっきり、彼の手を引いてキスした。後で恥ずかしくなって、後悔するって分かってるのに・・・。ユーリ君は突然のことに驚いていたが、すぐ気分をよくして、私の頭を引き寄せる。

ユーリ「んんっ・・・はぁ、キリカさん・・・。」

キリカ「!!?・・・。」

ユーリ君の喘ぎの混ざったような声が、理性を狂わせる。ユーリ君・・・どうしよう、私・・・!!

ユーリ「夜は、もっとたくさん頭撫でてくださいね。」

キリカ「!!?・・・。う、うん・・・。」

彼はニコッと笑って、また絵を描いていた位置に戻った。助かったと思うべきなんだろうけど・・・心はもやもやしていた。『もっとしてほしい。』『やっぱり船室へ行こう。』理性の欠片もない言葉が喉元まで出かかってる。

キリカ「・・・ユーリ君のバカ。」

ユーリ「??・・・。ん?何か言いました?」

キリカ「ううん!何にも言ってないよ。」

ユーリ君に、いかがわしいこと考えてたって言ったらどういう反応するんだろう・・・。それだけで嫌いにならないと思うけど・・・。

 

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01 誕生日

※このお話は恋愛ノベルアプリ「KIRIKA~同じ人間がいる、もう一つの世界~」3rd Season星の区ルートのアフターストーリーです。KIRIKAの星の区ルート(有料)とメルトコンプレックスのシュウルート(有料)も併せて読むことで物語をいっそうお楽しみいただけます。
・・・

 

 

11月末、私たちが住んでいる神都フレイブリースにも冬がやってきた。人々の往来も減り、露店を営む商人たちも気温の変化とともに繁忙期に向けた商品仕入れにシフトしていく。ユーリ君もそんな商人の一人だ。この日も、秋に大量に仕入れた素材でアクセサリー作りに邁進していた。

夏にバルへ行ってからというもの、ユーリ君の商売は順調だ。精霊使いの仕事がなければ、確実に私より稼いでるに違いない。でも、ユーリ君は、護衛を極力人任せにしない。彼のお父様は仕事を優先して護衛をできなかった結果、精霊使いの妻を亡くしている。ユーリ君はお父様の辛辣な思いを知っているからこそ、同じ後悔はしたくないと心に決めているのかもしれない。

ユーリ「キリカ!僕の誕生日、何が欲しい?」

アクセサリー作りがひと段落ついたのか、彼は突拍子もなく訊いてきた。ユーリ君の誕生日は12月24日。バルで言うところのクリスマスイヴだ。その誕生日に何が欲しいって・・・訊くのは私の方なんじゃ?

ユーリ「キリカには、一番欲しがってるものをあげたいから・・・。」
キリカ「ちょっと待って!ユーリの誕生日でしょ?なんで私がプレゼントをもらう側なの?普通、逆でしょ?」
ユーリ「えっ!?もしかして、バルだと誕生日の人がプレゼントをもらうの!?」
キリカ「うん。ルカは違うの?」
ユーリ「はい!ルカでは、お世話になった人たちに今日まで生きてこられたことへの感謝の気持ちを込めてプレゼントを贈る日なんだ。」
キリカ「!!?・・・。」

そう言われてみると、誕生日は自分が生まれてきたことより周囲に感謝すべきなのかもしれない。精霊使いだと余計にそう思う。精霊使いはどこへ行くにも護衛に頼らないといけないから・・・。

キリカ「素敵な考え方だね。バルは誕生日だと、生まれてきた人が主役って感じで、周囲の人たちへの感謝の気持ちまで考えられる人はあんまりいないかな。」
ユーリ「でも、僕もキリカが生まれてきてくれて嬉しいから、お祝いしたくなる人の気持ち分かるよ!!」
キリカ「!?・・・。ありがとう。」

そんなふうに言ってくれるの、ユーリ君だけなんだけどなあ・・・。

ユーリ「そうだ!!」
キリカ「ん?」
ユーリ「僕たちの誕生日は、バルの風習とルカの風習でどっちもやろうよ!!」
キリカ「ええっ!?それってつまり・・・お互いにプレゼントを渡し合うってこと?」
ユーリ「はい!これなら、よりいっそう誕生日を満喫できるよね!」
キリカ「ははっ・・・。」

その発想はなかった。

ユーリ「話戻るけど、キリカは何が欲しい?」
キリカ「うーん・・・。」

・・・とはいえ、ユーリ君は普段から欲しいものを買ってくれるし、私も私でそこまで物欲が強い方ではない。でも、ひとつだけ叶えたい要望がある。

キリカ「欲しいものじゃないけど、冬休みにまたバルへ行きたい・・・かな?」
ユーリ「!!?・・・。キリカ、バルへ帰りたくなったの!?」
キリカ「!?・・・違うってば!要望じゃないんだけど、『もう一人の私』が一回マイラスに帰省した方がいいんじゃないかと思って・・・。」
ユーリ「!!・・・。トキ様のことですね・・・。」
キリカ「うん・・・。」

実は、エレナさん言わく、おばあちゃんの体調が優れないらしいのだ。最近は占術をしても、エレナさんしか顔を出さないし・・・。私も、トキ様のことを本当のおばあちゃんのように思ってるけど・・・やっぱりもう一人の私にも会いたいんじゃないかな?もう一人の私だって、このことを知ったらきっと・・・。

ユーリ「そうだね・・・トキ様に直接進言しても断られそうだけど、僕たちがバルへ行くために仕方なく戻ってきたことにすれば、トキ様自身も受けざるをえないからね。」
キリカ「うん!」
ユーリ「でも、キリカの欲しいものじゃない!」
キリカ「うぅ・・・!!そう言われても、すぐに出てこないし・・・ユーリ君と一緒にいられたら、特に欲しいものも・・・。」
ユーリ「!!?・・・。キリカ!!」
キリカ「うわあ!!」

ユーリ君に抱きしめられ、思わず声を上げたものの・・・内心落ち着いてる自分がいる。いくら月日が経っても、ユーリ君に求められる自分でいたいんだ。

ユーリ「僕もキリカ以上に欲しいものなんて何もないよ!!世界で一番大好・・・!!」
キリカ「!!・・・あ、ありがとう。だからね・・・欲しいものってすぐには浮かばなくて・・・。」
ユーリ「キリカは、僕以外に欲しいものはないんだよね!?僕とたくさん一緒にいられたら、それが一番なんだよね!?」
キリカ「う、うん・・・つまりは、そういうことかな?」
ユーリ「!!・・・。分かった・・・分かったよ!!僕、もっともっとキリカと一緒にいられるようにするね!!」

そう自信満々に言った後、ユーリの顔が一瞬で赤くなる。彼は俯きながら言う。

ユーリ「お風呂に一緒に入るのは恥ずかしいけど・・・キリカが望むなら僕は・・・!!」
キリカ「大丈夫!そこまでのは求めてないから!」
ユーリ「そ、そうなの?僕、キリカの幸せのためだったら、なんだってできるからね!遠慮しなくていいんだからね!」
キリカ「う、うん・・・!!」

目をキラキラさせて迫ってくるユーリ君に苦笑いするしかなかった。冗談ではなく、彼は本気で何もかも一緒を実現させようとしているに違いない。

ユーリ「バルへ行くとなると、早速ワタリさんと話して、もう一人のキリカさんともう一人の僕に話を通した方がよさそうだね。」
キリカ「うん。入れ替わった時にちょうどマイラスにいられるようにしたいから、移動日数を考えると・・・。」
ユーリ「!!・・・なら、もう準備を始めないと!」
キリカ「えっ!?でも、アクセサリーが・・・。」
ユーリ「アクセサリーなんていつでも作れるから!!今すぐワタリさんのところへ行こう!」
キリカ「うわあ!!」

ユーリ君に手を引っ張られ、私たちは寒空の中、法の区へ繰り出した。

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Unityでのダウンロードを高速化するアセットの販売をはじめました!

Unityのゲームを作っていて、ダウンロード速度が思ったほど出ないと感じること、ありませんか?

例えば以下のようなケース
■シナリオの進み具合に応じて登場するキャラクターが、衣装や装備品を身につけていて、新しいキャラクターが出てくるたびにダウンロードが発生!
■育成画面でユーザーごとに保有するカードを 種類数分表示するようになってて、スクロールするたびにダウンロードが発生!
■10連ガチャをまわして、出た内容に応じてダウンロードが発生!

通信環境が悪いと結構な頻度でユーザーに待ち時間を発生させてしまいます……
そんなUnityでも、極力シンプルにダウンロードを高速化するアセットを作りました!!

[[ Simple H2 downloader – Unity Asset Store ]]
https://assetstore.unity.com/packages/tools/network/simpleh2downloader-173745

このアセット、Unityが使っている通信機能(WWW、UnityWebRequest)を使わず、代わりに最新の通信プロトコルで実装された通信機能によってダウンロードすることで、高速化を図っています。

Unityの通信機能では、HTTPバージョン1.1(以下、HTTP1)までしか使えません。この HTTP1 では、1回の通信で同時に1つしかダウンロードできないため、複数ダウンロードを並行で行うにはそれなりのマシンパワーが必要になります。また HTTP1 自体の仕様が古く(1995年制定)、テキスト解析にも比較的高いマシンパワー使います。スマホだけでなくサーバーの負荷も高いため、みだりに並行数を増やすことはマナー違反とされています。他にも通信を開始するための準備(DNS解決、暗号方式の擦り合わせ、暗号鍵の生成)も遅いです。もちろんそれらを動かすにはそれなりに複雑な実装が必要になります。

一方、このアセットでは内部で用いる通信プロトコルとして、HTTPバージョン2(以下、HTTP2)を使っています。
こちらを使うことで、1回の通信がさらに細かく制御できるようになり並行して取得できるようになってます、しかも従来の1つ分のマシンパワーで。また マシン負荷が低く抑えられるような工夫が HTTP2 に盛り込まれており、省電力でハイパフォーマンスなダウンロードが行えるプロトコルということもあり、今回採用に至りました。

余談ですが、Webページを表示するブラウザ(ChromeやMicrosoftEdge)では、当たり前のように使われている通信プロトコルがHTTP2なのですが、Unityでも使えるようになるのは、もう数年かかりそうとのこと……
参考:  [[ .NET Standard 2.1 platform support #1330 ]]
https://github.com/dotnet/standard/issues/1330#issuecomment-510495179

ということで、興味を持たれた方は、Unityアセットストアへどうぞ。
速度比較の参考動画もアップロードしてます。

[[ Simple H2 downloader – Unity Asset Store ]]
https://assetstore.unity.com/packages/tools/network/simpleh2downloader-173745