06 支度

ユーリ君とジンがマイラスへやってきたのは、夕刻で、ちょうどその頃、私はエレナさんとキッチンで夕食の準備をしていた。

ユーリ「キリカさん!!ごめんなさい!!僕はキリカさんがいないと生きていけませんから!!」

キリカ「うわっ!!」

ユーリ君は泣きながら、背後から抱きついた。ここまで情緒不安定だと、もう人前だろうが、なんだろうが関係ない。

ジン「こいつ、走って帰るとか言うんだぜ?おかげでこっちまでくたくただよ!」

キリカ「走って帰って来たんだ・・・。」

エレナ「ふふっ!ユーリ様はキリカ様と一緒じゃないと落ち着かないんですよね。」

ユーリ「!!・・・そうなんです!それなのに・・・ジンさんが僕をいかがわしいお店に連れて行って、キリカさんとの関係を壊そうとして・・・!!」

エレナ「まあ・・・!!」

ジン「ちょっと待て!!いかがわしいお店ってなんだよ!!普通のレストランだろ!!」

ユーリ「いかがわしいお店でした!!でなければ、あんなにたくさんの女性と食事するわけありません!!」

キリカ「・・・・・・・。」

十中八九、合コンだ。何を考えているんだか・・・。

キリカ「人の夫を合コンに連れていくなんてどういうつもり!?」

ユーリ「そうですよ!僕はキリカさんの夫なんですからね!」

怒りながらも、ユーリ君の顔は緩んでいる。私に『夫』と言ってもらえて喜んでいるに違いない。ジンは頭をかきながら、面倒くさそうに答える。

ジン「あー、無断なのは悪かったよ。だがな、こいつは女を知らなすぎる!」

キリカ「!?・・・知らなすぎるって・・・私も一応女なんだけど!?」

ジン「あー!ややこしいなあ・・・そういう意味じゃなくてだな・・・!!」

ジンがしどろもどろになっていると、エレナさんが鍋に火をかけた。

エレナ「キリカ様、夕食が遅くなってしまいます。続きを始めましょう。」

キリカ「あっ!はい!」

ジン「ほら、ユーリ、行くぞ!」

ジンはユーリ君を急かすように肩をたたき、彼はなごり惜しそうに私から離れ、小さく手を振った。私は照れくさくて、小さく頷いて返事した。そんなやり取りを見たのか、エレナさんは微笑ましそうに話す。

エレナ「キリカ様は、今のユーリ様で十分なんですよね。」

キリカ「えっ!?・・・うん、まあ・・・。」

本音を言えばその通りだが、即答するとのろけてるみたいなので濁した。

エレナ「ジン様はジン様で、キリカ様を案じておられるのです。悪く思わないであげてくださいね。」

キリカ「!?・・・う、うん・・・。」

私も本気で怒っているわけじゃないんだけど・・・。まるで、エレナさんはジンが何を心配してるのか知っているようだ。

キリカ「エレナさんは、ジンの良き理解者だね!」

エレナ「ふふっ・・あまりにも誤解されやすいので見ていられないだけですよ。」

エレナさんはそう言って、スープの味の最終確認をしていた。エレナさんとジンが結婚したら、いい夫婦になるんだろうなあ・・・。でも、ジンには、アンチルカの暗部に所属し、精霊使いの命を奪っていたという償いきれない過去がある。それもあって、ジンは自分が幸せになることから一線引いている部分はあると思う。現に、女好きなのに誰とも付き合わないし・・・。

エレナ「キリカ様、食器の準備をお願いしてもいいですか?」

キリカ「!?・・・はい!」

いけない、いけない!妄想を断ち切り、慌ててスープ皿を並べた。

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