10分ぐらいしてアクセサリーショップに戻ると、ユーリ君は待っていましたかのように抱きついた。
ユーリ「戻ってくるの遅かったんで心配になっちゃいましたよ。」
キリカ「うわあ!!?・・・人前で抱きつくのはダメだってば!」
ユーリ「す、すみません!!僕、本当に心配だったんですからね!!」
キリカ「分かった!分かったから・・・!!」
ユーリ君の肩を持って、離れさせた。気を利かせて時間を取ったつもりが裏目に出たのかあ・・・何分で戻るかも伝えるべきだったなあ・・・。
ユーリ「アクセサリーは見終えましたので、他のお店に行きましょうか?」
キリカ「うん!・・・でも、ちょっと疲れたからカフェで休憩しない?」
ユーリ「!?・・・いいですね!キリカさんと二人きりでカフェ・・・はあ!!僕たちの思い出がまた増えていきますね!!」
キリカ「ははっ・・・。」
大げさだなあ、ユーリ君は・・・。
キリカ「んじゃ、行こうか。」
ユーリ「はい!」
しかし、歩き始めてすぐ後ろから名前を呼ぶ声が聞こえた。
???「キリカ!」
キリカ「!!?・・・。」
反射的に振り返ると、面識のない同世代の女の子が立っていた。背が高くて、モデルさんみたいな女の子で、少し後ろには彼女の身長を際立たせるかのように小柄で可愛い感じの男の子がじっとこちらを見ている。どうしよう・・・もう一人の私の友達なのかも・・・!!私が、何も言えずにいると、モデルさんみたいな女の子は慌てて自己紹介を始めた。
メル「神永メルだよ!アリシアカフェで、私と芽森君と、キリカとユーリ君で話したよね?」
キリカ「!!?・・・。」
名前をすぐに名乗るってことは、もしかしたら忘れられてるかもという意識があったってことだよね?
キリカ「あ、ああっ!久しぶりだね!メルちゃん!」
メル「!!?・・・。」
私の返事に、今度は神永さんの方が黙り込んでしまった。何かおかしかった?神永さんは少し間をおいた後、苦笑いで返した。
メル「もー!キリカ、覚えてないの?呼び捨てでいいって話したじゃん!」
キリカ「あっ!そうだったっけ?ごめんごめん・・・。」
愛想笑いで返した。顔を忘れてるんだから、呼び捨てかどうかの情報を忘れてても変じゃないよね?すると、メルの隣にいた小柄で可愛い男の子が近寄ってきた。
???「・・・・・・・・・。素敵なイヤリングですね。拝見してもいいですか?」
ユーリ「!!?・・・。どうぞ!」
ユーリ君は少し驚きながらも、快くイヤリングを外して、渡した。今、ユーリ君が身につけているイヤリングは、もう一人のユーリ君からのプレゼントだ。いつも身につけているなら、こっちで生活しているときも落ち着かないだろうと、似たような商品を用意してくれていたのだ。男の子はアクセサリーに興味があるのか、細かいところまで見ていた。その間、私は彼女たちからどうやって離れようか考えていた。長く話せば話すほど、記憶がない私はボロが出るだけだ。丁寧に見終えると、男の子はユーリ君にイヤリングを返した。
???「ありがとうございます。洗練されたデザインと形状が素敵ですね。」
ユーリ「そう言ってもらえると嬉しいです。これは僕のお気に入りのイヤリングの1つなんですよ。」
男の子に褒められて、ユーリ君は嬉しそうに笑っていた。その表情に『危機感』という文字はない。もう、のんきなんだから・・・!!
キリカ「ユーリ君、そろそろ行こうか?」
ユーリ「!?・・・そうですね!では、またどこかで。」
ユーリ君は丁寧にお辞儀していたが、その礼儀正しい対応さえも今は煩わしく感じた。私は、彼を急かすように肩をたたき、二人に会釈して別れた。心の中で大丈夫、大丈夫と言い聞かせる。
ユーリ「キリカさん、そんなに慌ててどうしたんですか?」
キリカ「いいからついてきて!」
ユーリ「!?・・・。はい!」
とにかく離れることだけに集中し、休憩できそうなスペースで足を止め、事情を説明した。
キリカ「さっきの二人のことなんだけど・・・。」
ユーリ「とってもいい方たちでしたね!二人は恋人なんでしょうか?僕たちみたいにアクセサリーに興味がある恋人に出会えて幸せです。」
キリカ「!!?・・・。」
ここまで表立ってイライラしてるのに、ユーリ君はまだのんきなことを言っていて・・・さすがに堪忍袋の緒が切れた。
キリカ「のんきなこと言ってる場合!?ああ・・・ワタリさんになんて説明すれば・・・。」
声を大きくして怒鳴ると、さすがのユーリ君も顔色を変えた。
ユーリ「ワタリさん?どうして?」
キリカ「さっきの子、私の名前知ってた。もう一人の私の友達だったんだよ。」
ユーリ「あっ!!」
キリカ「今、気づいたの!?もー!信じらんない!!」
・・・と怒りたくて言ってみたものの、分かっていた。ユーリ君は考えていることが顔に出やすい性格だ。
ユーリ「わー!すみません!!」
キリカ「最悪、バルにも来れなくなるかも・・・。」
ユーリ「ええっ!!?」
キリカ「とにかく、ホテルに戻ろう!ワタリさんとハルキ君に事情を説明しないと・・・。」
ユーリ「はい!」
用心しすぎ・・・なのかもしれない。でも、この違和感が膨らんでいき、いつの日かルカの存在がバレてしまうかもしれない。そうなってしまったら、二度と入れ替わりはできなくなってしまう。・・・・・・・。私の不安を察してくれたのか、ユーリ君は優しく手を握った。
ユーリ「人の顔を忘れちゃうことってあるじゃないですか。さっきの方もそう判断してくださってると思いますよ。」
キリカ「!!?・・・だと、いいんだけど・・・。」
ユーリ「もし、今回の件で入れ替わりが難しくなったとしたら・・・それは僕の責任です。」
キリカ「えっ!?」
ユーリ「キリカさんとルカで生きていければ十分・・・初心に帰らないと、ですね!」
キリカ「!!・・・ユーリ君。」
ユーリ君の笑顔に癒される。もう、なんでも自分の責任にしちゃうんだから・・・。そう思いながらも、顔は緩んでいた。入れ替われるのを当たり前に考えるのはよくない・・・二度と戻れない覚悟で、ユーリ君とルカで生きていくって決めたんだから・・・。