19 真剣

その後、みんなで海浜公園に出かけたが、御旗君にクリスマスなんで二人きりで過ごしたいでしょう?」と切り出され、別行動なった。ダブルデートじゃなかったの?という疑問はありつつも、ユーリ君は大喜び

2時間後に再び合流したが、御旗君はやはり寒すぎたのか私服に着替えていた。夕方に差し掛かっていたのと、センターの人たちが見張っていることもあり、帰ることを促そうとしたが、御旗君から思いもよらぬ提案をされた。

シュウ「この後、近くのホテルでディナーを予約してますので行きましょう。」

御旗君にとって、このディナーこそが本題なのだろう。でも、この誘いを受けるわけにはいかない。センターの人たちは、御旗君にかなり危機感を抱いている。今まで入れ替わりのために人を連れてきてはあらゆる手段を使い、ルカの情報を守ってきた。でも、御旗君にその手は通用しない。彼はAIなので、例え命を奪ったとしてもルカの情報を消すことはできないのだ。

キリカ「えっと・・・私たちもホテルでディナーの手配がされてて・・・。」

シュウ「ああ、無抵抗な僕を誘拐して閉じ込めたあのホテルですね。」

キリカ「うぅ・・・!!」

なんて意地悪な子なんだ・・・。

シュウ「でしたら、こっちの予約はキャンセルして、僕たちもそちらでいただきます。」

キリカ・ユーリ「ええっ!?」

逃げられない・・・。今日で片を付けたいってこと?

メル「もー!いいでしょ!キリカたちも困ってるじゃない!!」

キリカ「・・・・・・・・・。」

御旗君の目は、神永さんに止められながらも私から視線を外さなかった。直感が言っている。もう逃げられない・・・。

キリカ「どうしたら信じてもらえるの?」

シュウ「あなたたちが何を隠してるのかも気になりますが、お互いのことを考え、控えましょう。ですが具体的な方法(生体反応を隠蔽する方法)を示してもらわないと、その方法が有効かどうかも検討がつきません。」

キリカ「!!・・・それは、ハルキ君が話した通り・・・!!」

シュウ「話せないのであれば、以前頂戴したお話はお断りします。」

キリカ「!!?・・・。」

恐れていたシナリオが展開しはじめ、血の気が引いた。

シュウ「隠蔽工作に僕とメルの記憶を消しても無駄ですよ?何重にもバックアップしてますからあなたたちの盗聴内容が抹消されることは99.9%ありません。」

キリカ「!!?・・・。」

ハルキ君・・・この子は脅しでどうにかなる相手じゃないよ。私たちに頼らなくたって、自分の力で未来を切り開く意志を持ってる。敵わない・・・!!唖然として言葉に詰まっていると、ユーリ君の手が触れた。

ユーリ「キリカさん。」

キリカ「!?・・・。」

ユーリ「僕には、彼の言ってることは全然分からないんですけど・・・メルさんと一緒にいたいという気持ちは伝わってきます!話してもいいと、僕は思います。」

キリカ「!!・・・ユーリ君。」

私は再び二人を見た。真剣な表情の御旗君と不安げに見守る神永さん・・・ユーリ君の言う通りかもしれない。私はルカのことばかり考えていたけど、この二人だって自分たちの『世界』を守るのに必死なんだ。

 

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18 ダブルデート

外出を避けたまま時は過ぎ・・・ユーリ君の誕生日を翌日に控えた夜、思いもよらぬ事態が起こった。なんと御旗君が明日、私とユーリ君に会いたいというのだ。指定された場所は、私も高校に通ってたときにお世話になったアリシアカフェ。ハルキ君は御旗君の連絡を受け、断ろうと思ったが『お互い秘密を抱えている同士、良好な関係を築きませんか?』と言われ、断りづらかったという。御旗君は何を考えているんだろう・・・本当に良好な関係を築きたいだけならいいんだけど・・・。

翌日。センターの職員たちも見張る厳戒態勢の中、私とユーリ君、神永さんと御旗君に会うため、アリシアカフェで待っていた。

ユーリ「あの・・・確認しておきたいことがあるんですけど・・・。」

キリカ「ん?」

ユーリ「僕はあの二人をどう呼べば・・・。」

すぐに思い浮かんだのは神永さんと御旗君だが、名字で呼ぶのに不慣れなユーリ君には名前の方がいいかもしれないと思った。

キリカ「メルさんとシュウ君でいいと思うよ。」

ユーリ「!?・・・名前でもいいんですね!」

キリカ「うん。バルでは親しい間柄だと名前で呼ぶことが多いから、そうした方が仲良くしたいって気持ちが出せるかも。」

ユーリ「そうなんですね!覚えておきます!」

ユーリ君は「メルさん、シュウ君」と復唱して覚えていた。ハルキ君からボロが出ないようにしろと忠告されているので、しっかりやろうという気持ちが強いようだ。ユーリ君は名前呼びで、私がさんづけも変だから、合わせて名前にしようかな・・・。そんなことを考えていると、景気のいい声が耳に入る。

???「お待たせしました!」

キリカ・ユーリ「!!?・・・。」

声の方を見ると、御旗君がサンタクロースのコスプレで手を振っていた。横には困惑の表情を浮かべた神永さんがいる。どうやら神永さんは私たちと会うことを知らなかったようだ。御旗君は神永さんに事情を説明した後、私たちの方へやってきた。私は咄嗟に友好的に見せようと、彼の服装を褒めた。

キリカ「シュウ君、サンタさんすごく似合ってるね!可愛い~!」

シュウ「ありがとうございます!」

確かに可愛いけど、それよりも寒くないのか心配だ。シュウ君のサンタクロースの服装は肩が思いっきり露出している。

ユーリ「サンタ・・・さん・・・?」

ユーリ君が困惑した表情で首を傾げた。独り言のような声だったが、神永さんは冷静に突っ込んできた。

メル「えっ!?サンタ・・・サンタクロースを知らないの!?」

ユーリ「!!?・・・。」

ま、まずい・・・!!

ユーリ「そ、そんなことないですよ!?」

知らないと不自然だと思われかねないと思い、嘘をついていた。動揺しすぎて、イヤリングに触れる癖がでそうになる。私は、つま先でユーリ君の靴を少しだけぶつけた。彼はビクッとして、手を戻す。

シュウ「『ここではない世界』の生活が長期に渡ってるんですよね。その辺は盗聴内容から察しています。」

キリカ・ユーリ「!!?・・・。」

メル「ちょっ!?」

あまりにストレートに言う御旗君を神永さんが止めた。背筋が凍りそうだった。『ここではない世界』という言い回し・・・彼はどこまでの情報を握ってるの?それに、今日の目的は何?震える手を自分で必死に抑えながら、尋ねた。

キリカ「・・・・・・。大事な話って何ですか?」

真剣に言ったつもりだったが、御旗君は余裕そうに笑みを浮かべていた。お互いバレてはいけない秘密を抱えているはずなのに・・・。

シュウ「ええ~!僕たち、手を組んだわけでしょう?純粋にダブルデートを楽しむ気にはなれないんですか?」

キリカ「!!・・・。」

急に話をそらさないでよ!!本当は私たちからもっと情報を引き出そうとしてるんでしょ!?イラッとして眉間にシワを寄せていると、神永さんが間に入った。

メル「キリカ、ごめん!シュウは疑り深いところがあって・・・たぶん、この前の話だけじゃ信用しきれてないんだと思う!ちょっと・・・いや、かなり攻撃的な部分があるけど、悪い人じゃないの!不器用っていうか・・・感情表現が下手っていうのか・・・!!」

シュウ「論点ズレてる。」

メル「!!・・・。」

御旗君に突っ込まれ、神永さんは恥ずかしそうに俯いた。御旗君は信用できないけど・・・彼女の言い分には頷けた。神永さんはこの前の対応からも、気が小さくて情に弱い人に思える。騙されてるのかもしれないけど・・・そんな彼女が御旗君を彼氏にしているのは、彼女しか知らない彼の一面があるから・・・なのかも。私にも、私しか知らないユーリ君の一面があるから・・・。

キリカ「!?・・・うん、わかった。メルがそうやって言うなら。」

メル「ユーリ君もごめんね!」

ユーリ「あっ!それはいいんですけど・・・ダブルデートって何ですか?」

キリカ「・・・・・・・・。」

ユーリ君の発言のおかげでピリピリしたムードは一気に緩む。この人たちはルカの情報を引き出そうとしているのかもしれない。でも、仲良くしたいと言っている以上、その言葉も信じようと思った。疑心暗鬼になりすぎてはいけない・・・信じて歩み寄らなければ、何も進まないのだから・・・。

 

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17 憂鬱

自分たちの泊まっている部屋に戻ったが、私の気分は沈んだままだった。これからどうなってっちゃうんだろう・・・。ハルキ君スニケットに責められたわけじゃないけど、やっぱり自分の行動を後悔してしまう。ちゃんともう一人の私に友人関係についてリサーチしておくべきだったし、誰かに聞かれてるという警戒心も弱かった。情報漏えいには気を付けろと何回も言われてたのに・・・。

ユーリ「キリカ!」

後ろからユーリ君に抱きつかれた。

キリカ「!?・・・。」

ユーリ「ハルキさんが大丈夫って言ってくれたんだよ。信じよう?」

キリカ「う、うん・・・。」

消えそうな声で返事すると、ユーリ君は私を振り返らせキスした。

キリカ「んっ・・・!?」

ユーリ「・・・今は僕のことだけ考えて?」

キリカ「えっ・・・んんっ!

流れるままに身を任せて、ソファに座る。でも、いつもような高揚感はない。心の中で『こんな時に何してるんだ!』と責める自分をかき消せないんだ。私は、ユーリ君のキスを拒むように、顔を逸らした。

ユーリ「!!?・・・。」

キリカ「ごめん・・・今はそういう気分になれない・・・。」

ユーリ「!!・・・そ、そうだよね・・・。」

彼はすぐ姿勢を戻そうとしたが、あまりにも落ち込んだ表情を浮かべるので、自分の膝に寝かせるように彼を引き寄せた。

ユーリ「!?・・・。」

キリカ「髪、撫でてもいい?」

ユーリ「!?・・・はい!」

もう、単純なんだから・・・。でも、髪を撫でてると私も落ち着く。ユーリ君と一緒にいられてるって実感できるから・・・。

 

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16 見解

前に会った時は可愛い男の子という印象が強かったが、ハルキ君とのやり取りを見ているとがらりと覆される。大人顔負けの冷静沈着な態度・・・神永さんが信頼する気持ちも分かる。話が終わって、御旗君が何とか納得して条件をのむと、神永さんはすごく嬉しかったようで私たちの目の前だと気にせず抱きついた。御旗君は恥ずかしそうにしていたが、愛おしそうに神永さんを見つめていた。一緒にいられる方法が見つかった時の自分たちのことを思い出す。大好きな人と一緒にいられる未来が手に入ったんだ・・・こんなに嬉しいことないよね!

二人が帰った後、ハルキ君に『AIを人間に見せかける技術』が本当にあるのか尋ねた。

ハルキ「半分嘘で、半分本当。」

キリカ「ええっ!?」

ハルキ「とりあえず、彼らを『裏切れない状態』にする必要があったからね。AIだと知ってると脅したところで開発者ならグレーゾーン。逆にこっちが不利だ。」

ユーリ「あの子は、こっちの事情をどこまで把握してるんでしょうか?分かりましたという言葉を素直に受け取りたいですけど、僕にはしたたかな対応に思えました。」

ハルキ「!?・・・。奇遇だね。俺もそう思ったよ。状況が不利だと分かっての判断だろうね。」

ユーリ「!!・・・。」

珍しくユーリ君とハルキ君の意見が一致していて驚いた。ユーリ君は普段は鈍い性格だが、商人として取引には敏感なのだろう。

キリカ「じゃあ、何か仕掛けられる可能性があるってこと?」

ハルキ「当面は様子見だね。でも、AIを人間に見せかける技術があるとまで言ったんだ。頭のいい彼なら、無碍な対応はしてこないと思うよ。」

キリカ「・・・・・・・。」

だといいんだけど・・・。

 

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15 呼び出し

取引はルカの情報漏えいを恐れ、一刻も早くしたかったのだが・・・肝心な御旗君は学校を休み、連行できない状況だった。もしかしたら、こちらが張っているのに気づいているのかもしれないとも考えたが、ずっと家に籠城しているわけにもいかないはずと粘っていた3日目の早朝、虚ろな表情をしながら外出する御旗君が目撃された。警戒どころか、疲れ切った様子だったらしく、捕まえるのに苦労はしなかったらしい。

その話を聞いた私は、神永さんに連絡した。御旗君を捕まえられたら、神永さんを呼び出す寸断になっていたのだ。彼女から話を聞けば、御旗君がAIだという証拠が見つかるかもしれないし、いざという時の脅しにも使えるからだそうだ。・・・・・。自分のされたことを思い出し、何ともハルキ君らしい方法だと思った。

ハルキ君の部屋へ案内すると、神永さんは困惑したように「えっ!?ええっ!?」と声を上げた。それもそのはず・・・ホロ(虚像)での活動が多くファンでさえも生で会うことは難しいとされる藤堂ハルキが目の前にいるのだから。

メル「藤堂ハルキ・・・さんですよね!?」

ハルキ「今日のことは内密にね。」

メル「!!・・・は、はい!!」

神永さんは勢いよく何度も頷いた。たぶんだけど・・・正直そうな人だ。ハルキ君と神永さんがソファに腰掛けると、本題に入った。

メル「それで、シュウはどこに・・・。」

ハルキ「彼なら隣で寝てるよ。起こす前に、聞きたいことがあるんだけどいいかな?」

メル「!!?・・・。」

神永さんの身体が一瞬、強張るのを感じた。彼女は、御旗君の正体や盗聴のことも知ってるのかも・・・。

ハルキ「ショッピングモールでこの二人を・・・。」

メル「何もお話しできません!!」

キリカ「!!?・・・。」

神永さんは、私たちが何かを知っていると思ったのか、見るからに青ざめていた。

メル「シュウを返してください!!あなたたちのことは、誰にも話しませんから!!」

ハルキ「!!?・・・落ち着いて!通報するわけじゃ・・・!!」

メル「通報!!?やめて・・・シュウを返して・・・!!」

キリカ「!!?・・・。」

ハルキ君が手を引っ張って止めたが、神永さんは混乱する一方だった。私は見ていられず、神永さんの前に座り込んで土下座した。

メル「!!?・・・。」

キリカ「盗聴して聞いたこと、誰にも話さないでもらえませんか!?」

ハルキ「キリカ!」

ユーリ「キリカさん!」

ユーリ君は私を立たせようと肩を掴んだ。

ユーリ「何もそこまでしなくても・・・!!相手は犯罪者なんですよ!!」

メル「!!?・・・。」

キリカ「そんなの関係ないよ!!このまま情報が明るみになったら、(世界を)行き来できないどころか、一緒にいられなくなるかもしれないんだよ!?ユーリ君、それでもいいの!?」

ユーリ「!!?・・・。」

ルカの情報が出て、私がもう一人の人間(クローン)じゃないとバレたら、やっとの思いで手に入れたユーリ君との生活も手放さなくちゃならないかもしれないんだ。そんなの、絶対に嫌だよ!・・・すると、肩を持つユーリ君の手が離れ、彼も横で土下座した。

ユーリ「お願いします。僕たちの幸せを取り上げないでください。」

メル「!!?・・・。」

神永さんは苦渋の選択をするように顔をしかめた後、表情を変えソファに戻った。

メル「盗聴の件は、深くお詫びします。外部にもらさないこともお約束します。」

ハルキ「!?・・・。なんで盗聴なんか・・・。」

メル「キリカとユーリ君が全く私のことを覚えてなかったので、AIじゃないかと疑ってて・・・。あっ!シュウは脳ゲーの開発にも携わってて・・・。」

キリカ「!!?・・・。」

私たちが異世界の人間だと気づいて盗聴していたわけじゃないんだ・・・。少しホッとした。

ハルキ「それで二人の疑いは晴れた?」

メル「・・・・・・・・。私には分かりません。シュウに聞かないと・・・。」

ハルキ「・・・・・・・・・。」

ハルキ「彼、AIだよね?」

メル「!!?・・・。いきなり何の話ですか?」

ハルキ「しらばっくれなくてもいいよ。君の動揺っぷりをみれば分かる。通報すると言われたら、普通、隠蔽するなり、詫びるなりしない?でも、君の反応は違った。『シュウを返して』・・・つまり、逮捕によって彼がAIだとバレるのが怖い。違う?」

メル「!!?・・・。」

的確な指摘に、神永さんはたじたじだった。おそらく御旗君はAIなんだろう。でも、どうしてそこまでしてAIにこだわるんだろう。AIじゃなくても本人で・・・。・・・・・・。そう思いかけた瞬間、身体がブルッと震えた。AIじゃなくてもいいは違う。私で言うなら、ユーリ君じゃなくてもう一人のユーリ君(バルユーリ)でもいいと言ってるようなもの・・・。事情は分からないけど、神永さんにとって『御旗君』と『御旗君のAI』は別人なんだよ!

キリカ「御旗君じゃなくて、御旗君のAIじゃなきゃダメな理由があるんですよね?」

メル「!!?・・・。何も言ってないですよね!?」

キリカ「私も一緒だから・・・。」

メル「えっ!?」

そう言って、ユーリ君の顔を見た。ユーリ君は小さく頷いて、私の手を握った。大好きな人と一緒の世界で暮らしたいと思うのは誰だって同じだよね?

メル「・・・ユーリ君もAIなの?」

ハルキ「今、『も』って言ったね?」

メル「!!?・・・。」

ハルキ「安心して。彼の素性をバラす気はさらさらないんだ。盗聴についても咎める気はない。」

メル「じゃあ、何を・・・。」

ハルキ「俺たちの秘密を守ってくれさえすれば、御旗君のAI問題を解決してあげてもいいんだけど。」

メル「!!?・・・。AI問題?」

私とユーリ君も同じように首を傾げた。

ハルキ「要するに、彼を人間にみせかけることもできるってこと。」

メル「!?・・・それ、本当ですか!?」

ハルキ「ああ。俺たちの技術を持ってすればね。」

メル「!!・・・。」

神永さんは晴れやかな表情を浮かべていたが、返事は慎重だった。

メル「私、頭悪いから難しいことよく分からなくて・・・。シュウと相談してからでも・・・。」

ハルキ「もちろん。」

AIを人間に見せかける技術・・・そんなことできるのかな?不思議に思いながらも、余計なことを言えばまた話がこじれてしまうと口をつぐんだ。

 

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14 AI

夜。ユーリ君の『盗聴犯の片想い説』はさておき、二人でハルキ君の部屋へ向かった。部屋にはハルキ君とスニケットがいた。

ハルキ「スニケットから大体の事情は聴いた。ルカのキリカ(もう一人のキリカ)に確認してみたけど、神永メルという女子は他校の友達で、一緒にいた男の子は面識がないらしい。」

キリカ「!?・・・。」

二人とも知り合いというわけじゃなかったんだ・・・。じゃあ、盗聴器を仕掛けたあの男の子は一体何者なんだ?

スニケット「・・・で、何者か探るために神永メルにキリカ・・・ああ!ややこしいなあ!・・・ルカのキリカに連絡をとって確認させた。・・・ガキの正体は御旗シュウ。神永メルのであり、あのネバーランドを開発しているゲーム会社の開発者だ。」

ユーリ・キリカ「ええええええええっ!?」

小学生がネバーランドの開発者!?脳ゲーって、そんなに簡単に作れるものなの!?

ユーリ「びっくりですよね!!まさか、メルさんと本当に恋人だったなんて・・・!!」

キリカ「いや、そこびっくりしてないから。」

高校生と小学生のカップルはけっこう珍しいが、脳ゲーの開発に携われるほど頭がいいなら年上じゃないと釣り合いがとれないのかも・・・。

ハルキ「御旗シュウは海外で極秘出産、規制緩和が始まるのに合わせてバルに引っ越してる。

キリカ「ご、極秘出産!?」

ハルキ「彼の両親とされる父母と彼のDNAは一致しない。彼の知能レベルが異常に高いことも考えると・・・デザイナーベイビーで間違いないだろう。」

ユーリ「デザイナー・・・ベイビー・・・?」

スニケット「要するに・・・人造人間だよ。親のエゴで、デザイン(遺伝子操作)されたんだろ。バルでは禁止されてるが、海外では合法な国もある。」

ユーリ「じんぞうにんげん?いでんしそうさ?」

スニケット「!!・・・ああ!面倒くせー!!お前は知らなくていいんだよ!!」

ユーリ「!!・・・。」

知りたいという気持ちと、聞くのが申し訳ない気持ちが相まって、彼は言葉を詰まらせた。私は、彼を安心させるつもりで背中に手を当てた。

キリカ「あとで私から説明するね。」

ユーリ「!!・・・。はい・・・!!」

ユーリ君の満面の笑みを横目に、スニケットは舌打ちしながら続ける。

スニケット「・・・で、お前ら、盗聴されてる間、余計なこと話さなかっただろうな?」

キリカ「!!?・・・。」

頭に嫌な記憶が蘇る。あの後、ユーリ君と今後の対応について話していたような・・・。はっきり覚えてないけど、『ルカ』とか、『もう一人の私』とか話していたような・・・!!

キリカ「どうすればいい!?私たち、一刻も早く戻った方がいい!?」

スニケット「!?・・・しゃべっちまったんだなあ・・・。外でルカの話は控えろってワタリさんから言われてるだろ!」

キリカ「!!・・・。ごめんなさい・・・。」

ホテルまで戻って説明すればよかったんだ。ルカの情報漏えいにつながるって不安がありながら、なんであんな大勢の人がいるところでしゃべっちゃったんんだろう・・・。大きなため息をついて落ち込むと、ユーリ君が私の手を掴んだ。

ユーリ「ハルキさんとスニケットさんの指示に従います。ルカを守るために、僕たちは何をすればいいですか?」

キリカ「!?・・・。」

ユーリ君の手の温度から、二人で前に進もうという気持ちが伝わってくる。落ち込んでても仕方ないよね・・・!!

ハルキ「御旗シュウの狙いは分からないが・・・彼の知能をもってすれば、ルカの情報に行き着くのも時間の問題だ。あいつらは、脳をデジタル化する技術を持ってるし、強硬手段に出ればキリカやユーリを誘拐して、記憶を干渉すれば一発で足がつく。」

キリカ「!!?・・・。」

バレないようにするじゃなくて、バレてると考えるべきってこと?もし、バレてるとしたら、彼は何をする気でいるんだろう?ルカの情報を内密にする代わりに、ルカを使ってゲームを作るとか言い出すのかな?怖いよ・・・。

ユーリ「ワタリさんはなんておっしゃってるんですか?」

ハルキ「・・・・・・・・。取引だ。」

ハルキ君の重たい表情に、ユーリ君と二人して息をのむ。

ハルキ「でも、彼には取引に応じるメリットがない。盗聴内容で脅されれば、太刀打ちできないからね。」

ユーリ「!!・・・それじゃ、取引しようがないんじゃ・・・!!」

ハルキ「ハッタリで行く。」

ユーリ「えっ!?」

ハッタリ?

ハルキ「ワタリさんの調査によると、御旗シュウはあの年でネバーランドのメインプログラマーとして開発に携わっているらしい。・・・とはいえ、子供だ。開発に携わっているのは、自分もそのゲーム(ネバーランド)に興味があるからに違いない。」

ユーリ「???・・・。」

キリカ「ん?どういうこと?」

ハルキ「彼は・・・今でもAIなんじゃないかと思ってる。バルが法律で禁止した今でもね。」

キリカ「!!?・・・。」

ユーリ「なるほど!警備隊に突き出すんですね!!」

ハルキ「!?・・・。突き出してどうするんだよ。第一、まだ開発者のAI切り替えは業務中は認められてる。」

ユーリ「!?・・・そ、そうなんですね・・・。」

スニケット「秘密裏にAI切り替えが行われると、テロが容易になるリスクもあって、政府はAIを検知するシステムの開発を進めている。もしそれが実現されれば、御旗シュウの本体(オリジナル)は現実で生きるしかなくなるってわけだ。」

ユーリ「・・・・・・・・・。」

分からないことが多すぎて、さすがのユーリ君も言葉を詰まらせた。

キリカ「えっと、つまり・・・御旗君がAIである秘密を守る代わりに、私たちの秘密も守ってほしい・・・ってことだよね?」

ハルキ「うーん・・・まあ、そういうことにしておくよ。」

キリカ「でも、もしAIじゃなかったら・・・!!」

ハルキ「・・・・・・・・。その時はその時かな?」

キリカ「えええええーっ!?」

ハルキ「でも、彼はAIだよ。手塩をかけて作り上げた世界に住みたいと思うのは自然なことだと思うからね。」

キリカ「!!?・・・。」

ネバーランドという第2の世界に魅せられた御旗君と、ルカを愛してやまないハルキ君の思いが重なって見えた。同じ境遇だからこそ、見えるものがあるのかもしれない・・・。

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13 心当たり

部屋に戻ると警報音は鳴っていなかった。

スニケット「ハルキの部屋とこの部屋は盗聴器を感知して、知らせるようになってるんだ。」

キリカ「!!?・・・。じゃあ、スニケットがさっきユーリ君のイヤリングから外していたのは・・・!!」

スニケット「盗聴器だ。」

キリカ「!!・・・。」

・・・だとすると、盗聴器をつけられたタイミングはあの時しかない。メルちゃんと一緒にいた男の子にイヤリングを見せた、あのタイミング・・・。でも、なんで・・・!!

スニケット「心当たりがあるみたいだな。」

キリカ「!?・・・。うん。・・・実は、もう一人の私の知り合いに会っちゃって、適当に話を合わせたの。・・・で、その子と一緒にいた男の子がユーリ君のイヤリングに興味を持ってて、見せてほしいって言ってきたの。つけられたとしたら、その時しか・・・。」

スニケット「ガキ!?」

キリカ「うん・・・小学校高学年ぐらいだったかな?」

スニケット「マジか・・・。いや、知り合いを名乗る女がやらせた可能性もあるか。」

ユーリ「!?・・・。あの、僕、何かいけないことを・・・。」

スニケット「・・・・・・。ハルキには俺から報告する。今日の外出は控えてくれ。」

キリカ「う、うん!もちろん!」

スニケットはユーリ君に説明するのが煩わしかったのか、無視して部屋を出た。私は落ち込んでいるユーリ君を慰めるように、背中に手を当てた。

ユーリ「!?・・・。やっぱり、僕、何かしてしまったんですね・・・。」

キリカ「・・・・・・。誰でも、気づけなかったと思うから・・・。」

ユーリ「!!・・・本当のことを言ってください!僕、何をしてしまったんですか!?」

キリカ「!!?・・・。」

私は、彼の手を握り、分かりやすく盗聴されていたことを説明した。

ユーリ「バルは、そんなことまでできるんですね・・・。迂闊でした・・・。」

キリカ「うん・・・私も・・・。まさかあんな小さな子が盗聴器を仕掛けてくるなんて・・・。」

小さい子じゃなくても、気づかなかっただろう・・・。まさか自分たちに盗聴器をしかけようとする人間がいるなんて、夢にも思ってなかったのだから・・・。

ユーリ「僕たちが異世界から来た人間だと分かっての盗聴・・・なんでしょうか?一体、何が目的で・・・。」

キリカ「うーん・・・。」

神永さんはどう見ても、私と同い年ぐらいの女の子だ。不自然そうな素振りはなかったし、演技しているようには思えなかった。・・・となると、あの男の子の単独行動?どちらにしても、盗聴の意図は分からない・・・。

ユーリ「もしかすると・・・。」

キリカ「ん?」

ユーリ「あの子、キリカに気がったのかも!!」

キリカ「ええっ!?」

絶対ないでしょ!

ユーリ「メルさんと恋人と見せかけて・・・実は密かにキリカに好意を寄せていた。でも、キリカには僕という夫がいる!なんとかして別れさせたいと思ったあの子は、僕に盗聴器を仕掛け、別れさせるための材料を探して・・・!!」

キリカ「あり得ないから!!」

ユーリ君の想像力・・・いや、被害妄想力には恐れ入る。異性を見つけると、すぐ恋敵に結び付けるんだから・・・。でも、まあ・・・そうやって言ってもらえると好かれてるんだと思えて、嬉しい気持ちもあるんだけど・・・。

キリカ「もう・・・真面目に考えてよね!」

ユーリ「考えてるよ!・・・・・・。あっ!そうだ!僕のイヤリングにつけられていた盗聴器は今どこ!?」

キリカ「スニケットが持ってちゃったよ。・・・で、どうするつもり?」

ユーリ「もう一回、イヤリングにつけるんだよ!」

キリカ「ええっ!?」

ユーリ「それで、キリカがいかに僕を好きかを話すんだ。そしたら、あの子もキリカをあきらめるしかないよ!!」

キリカ「・・・・・・・・・。」

呆れて開いた口が塞がらない。ユーリ君にとって『盗聴犯の片想い説』は冗談ではないのだ。

 

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12 盗聴器

ホテルから離れ、近くのカフェで二人で黙り込んでいた。ユーリ君に盗聴されている現状を伝えるのは難しかったので、『私がいいって言うまで、一言もしゃべらないで。理由はあとで説明する。』と書いたメモを渡した。カフェに来てから30分くらい経った頃、スニケットがやってきた。思わず『スニケット!』と声を上げそうになったが、耐える。しかし、ユーリ君には無理だった。

ユーリ「スニケ・・・!!」

しかし、スニケットは予想していたようで、ユーリ君が名前を発する途中で口を押える。その時、また何かの音が鳴っていた。すると、スニケットは特殊な装置を出して、ユーリ君に近づけた。その音は、ユーリ君の顔に近づくほど大きな音になっていく。

スニケット「ちっ!」

ユーリ「!?・・・。」

スニケットはユーリ君のイヤリングを雑に取り、何かを取っ払っていた。

スニケット「行くぞ。」

取り外したら取り外したで、彼はすぐに店を出ていった。ユーリ君は耳を抑えながら、不思議そうに私と顔を見合わせていた。

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11 警報

ホテルに戻り、一旦、自分たちの部屋へ戻ろうとすると、警報音が鳴った。

キリカ「えっ!?何の音!?」

ユーリ「!?・・・部屋の中から聞こえるような気がしますけど。」

アラームか何かが鳴っているのかと思い、部屋に入って見回してみたが、特にそれらしきものは見当たらない。警報音もずっとなり続けている。

キリカ「火災装置か何か?・・・よく分からないけど、離れた方が・・・。」

話している途中で、今度は携帯端末まで鳴った。相手はスニケットだ。

キリカ「スニケット!?ちょうどよかった!聞きたいことがあるんだけど・・・!!」

スニケット「その場所を離れて、何もしゃべるな!」

キリカ「えっ!?どうして・・・。」

スニケット「聞こえなかったか!?その場所を離れて、何もしゃべるな!」

キリカ「!?・・・。」

怒気の混じった声で2回も言われ、さすがの私も口を閉じた。しゃべるなってどういうことだろう・・・?・・・・・。盗聴?

キリカ「ユーリ君、行こう!!」

ユーリ「えっ!?」

キリカ「いいから早く!!」

ユーリ君の手を取り、慌てて外へ避難した。何が何だか分からないけど、ここから離れないと・・・!!

 

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10 動揺

10分ぐらいしてアクセサリーショップに戻ると、ユーリ君は待っていましたかのように抱きついた。

ユーリ「戻ってくるの遅かったんで心配になっちゃいましたよ。」

キリカ「うわあ!!?・・・人前で抱きつくのはダメだってば!」

ユーリ「す、すみません!!僕、本当に心配だったんですからね!!」

キリカ「分かった!分かったから・・・!!」

ユーリ君の肩を持って、離れさせた。気を利かせて時間を取ったつもりが裏目に出たのかあ・・・何分で戻るかも伝えるべきだったなあ・・・。

ユーリ「アクセサリーは見終えましたので、他のお店に行きましょうか?」

キリカ「うん!・・・でも、ちょっと疲れたからカフェで休憩しない?」

ユーリ「!?・・・いいですね!キリカさんと二人きりでカフェ・・・はあ!!僕たちの思い出がまた増えていきますね!!」

キリカ「ははっ・・・。」

大げさだなあ、ユーリ君は・・・。

キリカ「んじゃ、行こうか。」

ユーリ「はい!」

しかし、歩き始めてすぐ後ろから名前を呼ぶ声が聞こえた。

???「キリカ!」

キリカ「!!?・・・。」

反射的に振り返ると、面識のない同世代の女の子が立っていた。背が高くて、モデルさんみたいな女の子で、少し後ろには彼女の身長を際立たせるかのように小柄で可愛い感じの男の子がじっとこちらを見ている。どうしよう・・・もう一人の私の友達なのかも・・・!!私が、何も言えずにいると、モデルさんみたいな女の子は慌てて自己紹介を始めた。

メル「神永メルだよ!アリシアカフェで、私と芽森君と、キリカとユーリ君で話したよね?」

キリカ「!!?・・・。」

名前をすぐに名乗るってことは、もしかしたら忘れられてるかもという意識があったってことだよね?

キリカ「あ、ああっ!久しぶりだね!メルちゃん!」

メル「!!?・・・。」

私の返事に、今度は神永さんの方が黙り込んでしまった。何かおかしかった?神永さんは少し間をおいた後、苦笑いで返した。

メル「もー!キリカ、覚えてないの?呼び捨てでいいって話したじゃん!」

キリカ「あっ!そうだったっけ?ごめんごめん・・・。」

愛想笑いで返した。顔を忘れてるんだから、呼び捨てかどうかの情報を忘れてても変じゃないよね?すると、メルの隣にいた小柄で可愛い男の子が近寄ってきた。

???「・・・・・・・・・。素敵なイヤリングですね。拝見してもいいですか?」

ユーリ「!!?・・・。どうぞ!」

ユーリ君は少し驚きながらも、快くイヤリングを外して、渡した。今、ユーリ君が身につけているイヤリングは、もう一人のユーリ君からのプレゼントだ。いつも身につけているなら、こっちで生活しているときも落ち着かないだろうと、似たような商品を用意してくれていたのだ。男の子はアクセサリーに興味があるのか、細かいところまで見ていた。その間、私は彼女たちからどうやって離れようか考えていた。長く話せば話すほど、記憶がない私はボロが出るだけだ。丁寧に見終えると、男の子はユーリ君にイヤリングを返した。

???「ありがとうございます。洗練されたデザインと形状が素敵ですね。」

ユーリ「そう言ってもらえると嬉しいです。これは僕のお気に入りのイヤリングの1つなんですよ。」

男の子に褒められて、ユーリ君は嬉しそうに笑っていた。その表情に『危機感』という文字はない。もう、のんきなんだから・・・!!

キリカ「ユーリ君、そろそろ行こうか?」

ユーリ「!?・・・そうですね!では、またどこかで。」

ユーリ君は丁寧にお辞儀していたが、その礼儀正しい対応さえも今は煩わしく感じた。私は、彼を急かすように肩をたたき、二人に会釈して別れた。心の中で大丈夫、大丈夫と言い聞かせる。

ユーリ「キリカさん、そんなに慌ててどうしたんですか?」

キリカ「いいからついてきて!」

ユーリ「!?・・・。はい!」

とにかく離れることだけに集中し、休憩できそうなスペースで足を止め、事情を説明した。

キリカ「さっきの二人のことなんだけど・・・。」

ユーリ「とってもいい方たちでしたね!二人は恋人なんでしょうか?僕たちみたいにアクセサリーに興味がある恋人に出会えて幸せです。」

キリカ「!!?・・・。」

ここまで表立ってイライラしてるのに、ユーリ君はまだのんきなことを言っていて・・・さすがに堪忍袋の緒が切れた。

キリカ「のんきなこと言ってる場合!?ああ・・・ワタリさんになんて説明すれば・・・。」

声を大きくして怒鳴ると、さすがのユーリ君も顔色を変えた。

ユーリ「ワタリさん?どうして?」

キリカ「さっきの子、私の名前知ってた。もう一人の私の友達だったんだよ。」

ユーリ「あっ!!」

キリカ「今、気づいたの!?もー!信じらんない!!」

・・・と怒りたくて言ってみたものの、分かっていた。ユーリ君は考えていることが顔に出やすい性格だ。

ユーリ「わー!すみません!!」

キリカ「最悪、バルに来れなくなるかも・・・。」

ユーリ「ええっ!!?」

キリカ「とにかく、ホテルに戻ろう!ワタリさんとハルキ君に事情を説明しないと・・・。」

ユーリ「はい!」

用心しすぎ・・・なのかもしれない。でも、この違和感が膨らんでいき、いつの日かルカの存在がバレてしまうかもしれない。そうなってしまったら、二度と入れ替わりはできなくなってしまう。・・・・・・・。私の不安を察してくれたのか、ユーリ君は優しく手を握った。

ユーリ「人の顔を忘れちゃうことってあるじゃないですか。さっきの方もそう判断してくださってると思いますよ。」

キリカ「!!?・・・だと、いいんだけど・・・。」

ユーリ「もし、今回の件で入れ替わりが難しくなったとしたら・・・それは僕の責任です。」

キリカ「えっ!?」

ユーリ「キリカさんとルカで生きていければ十分・・・初心に帰らないと、ですね!」

キリカ「!!・・・ユーリ君。」

ユーリ君の笑顔に癒される。もう、なんでも自分の責任にしちゃうんだから・・・。そう思いながらも、顔は緩んでいた。入れ替われるのを当たり前に考えるのはよくない・・・二度と戻れない覚悟で、ユーリ君とルカで生きていくって決めたんだから・・・。

 

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