※このお話は恋愛ノベルアプリ「KIRIKA~同じ人間がいる、もう一つの世界~」3rd Season星の区ルートのアフターストーリーです。KIRIKAの星の区ルート(有料)とメルトコンプレックスのシュウルート(有料)も併せて読むことで物語をいっそうお楽しみいただけます。
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11月末、私たちが住んでいる神都フレイブリースにも冬がやってきた。人々の往来も減り、露店を営む商人たちも気温の変化とともに繁忙期に向けた商品仕入れにシフトしていく。ユーリ君もそんな商人の一人だ。この日も、秋に大量に仕入れた素材でアクセサリー作りに邁進していた。
夏にバルへ行ってからというもの、ユーリ君の商売は順調だ。精霊使いの仕事がなければ、確実に私より稼いでるに違いない。でも、ユーリ君は、護衛を極力人任せにしない。彼のお父様は仕事を優先して護衛をできなかった結果、精霊使いの妻を亡くしている。ユーリ君はお父様の辛辣な思いを知っているからこそ、同じ後悔はしたくないと心に決めているのかもしれない。
ユーリ「キリカ!僕の誕生日、何が欲しい?」
アクセサリー作りがひと段落ついたのか、彼は突拍子もなく訊いてきた。ユーリ君の誕生日は12月24日。バルで言うところのクリスマスイヴだ。その誕生日に何が欲しいって・・・訊くのは私の方なんじゃ?
ユーリ「キリカには、一番欲しがってるものをあげたいから・・・。」
キリカ「ちょっと待って!ユーリの誕生日でしょ?なんで私がプレゼントをもらう側なの?普通、逆でしょ?」
ユーリ「えっ!?もしかして、バルだと誕生日の人がプレゼントをもらうの!?」
キリカ「うん。ルカは違うの?」
ユーリ「はい!ルカでは、お世話になった人たちに今日まで生きてこられたことへの感謝の気持ちを込めてプレゼントを贈る日なんだ。」
キリカ「!!?・・・。」
そう言われてみると、誕生日は自分が生まれてきたことより周囲に感謝すべきなのかもしれない。精霊使いだと余計にそう思う。精霊使いはどこへ行くにも護衛に頼らないといけないから・・・。
キリカ「素敵な考え方だね。バルは誕生日だと、生まれてきた人が主役って感じで、周囲の人たちへの感謝の気持ちまで考えられる人はあんまりいないかな。」
ユーリ「でも、僕もキリカが生まれてきてくれて嬉しいから、お祝いしたくなる人の気持ち分かるよ!!」
キリカ「!?・・・。ありがとう。」
そんなふうに言ってくれるの、ユーリ君だけなんだけどなあ・・・。
ユーリ「そうだ!!」
キリカ「ん?」
ユーリ「僕たちの誕生日は、バルの風習とルカの風習でどっちもやろうよ!!」
キリカ「ええっ!?それってつまり・・・お互いにプレゼントを渡し合うってこと?」
ユーリ「はい!これなら、よりいっそう誕生日を満喫できるよね!」
キリカ「ははっ・・・。」
その発想はなかった。
ユーリ「話戻るけど、キリカは何が欲しい?」
キリカ「うーん・・・。」
・・・とはいえ、ユーリ君は普段から欲しいものを買ってくれるし、私も私でそこまで物欲が強い方ではない。でも、ひとつだけ叶えたい要望がある。
キリカ「欲しいものじゃないけど、冬休みにまたバルへ行きたい・・・かな?」
ユーリ「!!?・・・。キリカ、バルへ帰りたくなったの!?」
キリカ「!?・・・違うってば!要望じゃないんだけど、『もう一人の私』が一回マイラスに帰省した方がいいんじゃないかと思って・・・。」
ユーリ「!!・・・。トキ様のことですね・・・。」
キリカ「うん・・・。」
実は、エレナさん言わく、おばあちゃんの体調が優れないらしいのだ。最近は占術をしても、エレナさんしか顔を出さないし・・・。私も、トキ様のことを本当のおばあちゃんのように思ってるけど・・・やっぱりもう一人の私にも会いたいんじゃないかな?もう一人の私だって、このことを知ったらきっと・・・。
ユーリ「そうだね・・・トキ様に直接進言しても断られそうだけど、僕たちがバルへ行くために仕方なく戻ってきたことにすれば、トキ様自身も受けざるをえないからね。」
キリカ「うん!」
ユーリ「でも、キリカの欲しいものじゃない!」
キリカ「うぅ・・・!!そう言われても、すぐに出てこないし・・・ユーリ君と一緒にいられたら、特に欲しいものも・・・。」
ユーリ「!!?・・・。キリカ!!」
キリカ「うわあ!!」
ユーリ君に抱きしめられ、思わず声を上げたものの・・・内心落ち着いてる自分がいる。いくら月日が経っても、ユーリ君に求められる自分でいたいんだ。
ユーリ「僕もキリカ以上に欲しいものなんて何もないよ!!世界で一番大好・・・!!」
キリカ「!!・・・あ、ありがとう。だからね・・・欲しいものってすぐには浮かばなくて・・・。」
ユーリ「キリカは、僕以外に欲しいものはないんだよね!?僕とたくさん一緒にいられたら、それが一番なんだよね!?」
キリカ「う、うん・・・つまりは、そういうことかな?」
ユーリ「!!・・・。分かった・・・分かったよ!!僕、もっともっとキリカと一緒にいられるようにするね!!」
そう自信満々に言った後、ユーリの顔が一瞬で赤くなる。彼は俯きながら言う。
ユーリ「お風呂に一緒に入るのは恥ずかしいけど・・・キリカが望むなら僕は・・・!!」
キリカ「大丈夫!そこまでのは求めてないから!」
ユーリ「そ、そうなの?僕、キリカの幸せのためだったら、なんだってできるからね!遠慮しなくていいんだからね!」
キリカ「う、うん・・・!!」
目をキラキラさせて迫ってくるユーリ君に苦笑いするしかなかった。冗談ではなく、彼は本気で何もかも一緒を実現させようとしているに違いない。
ユーリ「バルへ行くとなると、早速ワタリさんと話して、もう一人のキリカさんともう一人の僕に話を通した方がよさそうだね。」
キリカ「うん。入れ替わった時にちょうどマイラスにいられるようにしたいから、移動日数を考えると・・・。」
ユーリ「!!・・・なら、もう準備を始めないと!」
キリカ「えっ!?でも、アクセサリーが・・・。」
ユーリ「アクセサリーなんていつでも作れるから!!今すぐワタリさんのところへ行こう!」
キリカ「うわあ!!」
ユーリ君に手を引っ張られ、私たちは寒空の中、法の区へ繰り出した。