02 潮風

ワタリさんともう一人のユーリ君に事情を説明し、12月の冬休みに合わせて入れ替わることになった。もう一人の私が受験生なので心配してたが、もう一人のユーリ君は『大事な時期ではありますが、後で知ったらもう一人のキリカさんは悲しむと思います。』と言ってくれたんだ。私も同じ気持ちだ。

フレイブリースの海の区からリーネガイル行きの船に乗り、3日。私は船の手すりを掴み、同じ方向を見させられていた。

ユーリ「そのまま、じっとしててくださいね!」

キリカ「う、うん・・・。」

急にユーリ君に似顔絵を描きたいと言われ、付き合うことになったのだ。この状況を楽しんでるノノカはお腹を抱えて笑いっぱなしだ。

ノノカ「ついに絵を描きだしちゃうとは・・・ユーリのキリカ好きも相当だね!」

キリカ「もー!笑い過ぎ!」

ノノカ「そのうち、家中に絵を飾りだして『船に乗ってるキリカさん、ただいま!』とか言い出して・・・!!」

キリカ「絶対にさせないから!!」

ユーリ「ノノカさん!キリカさんを怒らせないでください!表情が変わっちゃうでしょう!?」

ノノカ「はーい、はいはいはーい!!」

キリカ「ふふっ!」

ユーリ君とノノカの噛み合ってない掛け合いはいつ見ても面白い。

ユーリ「!!・・・キリカさん、今の笑った顔すごくいいです!もっとください!!」

キリカ「!!?・・・。」

ノノカ「きゃはははははっ!!ごめっ、もう無理!」

ノノカは笑い過ぎてお腹が痛いのか、上空に勢いよく飛んで行った。笑い過ぎでしょ、もう・・・。

キリカ「さっき、どうしてノノカと話してるって分かったの?」

ユーリ「表情と話し方でなんとなく分かりますよ。見えない分、知りたい気持ちが強いのかもしれません。」

ユーリ君は筆を止めることなくサラッと言ったが、私はドキッとした。潮風で、彼の髪とイヤリングが揺れる。ユーリ君は今度の誕生日で16歳・・・そのせいか妙に大人っぽさを感じる。そういえば、身長も出会った頃に比べるとかなり伸びたような・・・。

ユーリ「その表情好きです・・・。」

キリカ「!!?・・・。」

ユーリ君はスケッチブックを閉じて駆け寄り、私の手を握った。

ユーリ「今日はもう・・・船室に戻りませんか?」

キリカ「えっ!?絵は!?」

ユーリ「!!?・・・。仕上げてしまいたい気持ちもあるんですけど・・・気持ちを抑えられなくて・・・。」

キリカ「!!・・・。」

彼の高揚が伝染したように、息苦しくなる。ユーリ君は私の恥ずかしがってる表情が好きだというけど、私はそうやって言ってくれるときのユーリ君の表情が好き。でも・・・。

キリカ「絵は今しか描けないよ?」

ユーリ「!?・・・。」

ランプの光だけでやるのは非効率だ。それに・・・そう言っておかないと、ユーリ君は『絵はいいからずっと部屋にいよう』と言い出しかねない。ここは妻として、うまく夫を転がさないと・・・。

ユーリ「そうですけど・・・。」

ユーリ君は今にも泣きそうな表情をしながら俯き、力強く手を握る。ユーリ君は本当にズルい・・・。私の弱いとこ、全部知ってる。

ユーリ「!!?・・・。」

思いっきり、彼の手を引いてキスした。後で恥ずかしくなって、後悔するって分かってるのに・・・。ユーリ君は突然のことに驚いていたが、すぐ気分をよくして、私の頭を引き寄せる。

ユーリ「んんっ・・・はぁ、キリカさん・・・。」

キリカ「!!?・・・。」

ユーリ君の喘ぎの混ざったような声が、理性を狂わせる。ユーリ君・・・どうしよう、私・・・!!

ユーリ「夜は、もっとたくさん頭撫でてくださいね。」

キリカ「!!?・・・。う、うん・・・。」

彼はニコッと笑って、また絵を描いていた位置に戻った。助かったと思うべきなんだろうけど・・・心はもやもやしていた。『もっとしてほしい。』『やっぱり船室へ行こう。』理性の欠片もない言葉が喉元まで出かかってる。

キリカ「・・・ユーリ君のバカ。」

ユーリ「??・・・。ん?何か言いました?」

キリカ「ううん!何にも言ってないよ。」

ユーリ君に、いかがわしいこと考えてたって言ったらどういう反応するんだろう・・・。それだけで嫌いにならないと思うけど・・・。

 

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