1週間後。リーネガイルでお父様に挨拶をしてフレイブリースに戻ることになり、丘陵をジンとユーリ君と私で歩いていた。
ジン「まっ!近いうち巡礼で顔出すから、泊めてくれな!」
ユーリ「ええっ!?」
ユーリ君はあからさまに嫌な顔をしている。
ジン「なんなんだ!その顔は!家ぐらいいいだろ!」
ユーリ「!!・・・巡礼で来られるなら、人数も多いですよね?僕たちの家は小さいですし・・・。」
キリカ「小さいって言っても、リビングを使えば2,3人ぐらいなら・・・。屋根裏も一人ぐらいなら・・・。」
ユーリ「!!?・・・屋根裏部屋だけは絶対にダメです!!」
キリカ「!?・・・どうして?」
ユーリ「寝室に僕たち以外の人を入れるなんて・・・考えられないです!!」
ジン「潔癖すぎだろ!それでも護衛か!?」
ユーリ「巡礼は仕方ないでしょう!?それに・・・キリカさんの匂いを嗅いだら、おかしくなって襲いかかってくるかもしれません!」
キリカ「絶対ないから!」
ユーリ「!!・・・とにかく絶対にダメです!!ジンさんたちが一歩でも立ち入ったら、シーツを・・・いえ、ベッドごと買い替えます!!」
ジン「!!・・・めちゃくちゃだな、おい!」
ジンは呆れて、大きなため息をついた。私は恥ずかしくて俯いた。
ユーリ「火の精霊への巡礼は、ジンさんとカナメさんで来られるんですか?」
ジン「いや、違う。俺と・・・。」
ジンが話そうとすると、向かいからやってくる人たちが声を上げた。
???「ジンさーーーん!!ただいま戻りました!!」
ジン「おおっ!シュウ、戻ったか!」
小柄で可愛い顔をした男の子が手を振っていた。見間違えようがない。マイラスの新しい精霊使いシュウ君と、バルでネバーランドの開発をしているシュウ君は『同じ人間』だったのだ。私とユーリ君は思わず顔を見合わせた。
シュウ「ジンさん、こちらは?」
ジン「ああ!お前らまだ会ったことなかったのか!・・・ずっと会いたがってたキリカちゃんとその夫のユーリだよ。」
シュウ「!!?・・・この方が!!」
キリカ「うわあっ!!」
シュウ君は興奮気味に私の手を掴んだ。
シュウ「初めまして!シュウと申します!!ずっとお会いしたいと思っておりました!!」
キリカ「!?・・・あ、ありがとう。」
ユーリ「!!・・・気安く触らないでください!!」
ユーリ君は、シュウ君の手首を大人げなく叩き、離れさせた。シュウ君は驚きながらも、気負いすることなく続けて話す。
シュウ「今からリーネガイルですか!?夕刻にはマイラスに戻られるんですか!?」
ジン「いや、リーネガイルでユーリの親父に会った後、フレイブリースに戻る予定だ。間が悪かったな!」
シュウ「えええっ!?」
シュウ君はガクッと肩を落としたが、数秒後また勢いよく顔を上げた。
シュウ「いえ!最高の間ですよ!僕たちもキリカ様に合わせてフレイブリースに渡りましょう。」
ジン「!?・・・どいつもこいつもめちゃくちゃなこと言いやがって・・・。巡礼は思っている以上に負担が大きい。休むのも仕事のうちだぞ!」
シュウ「船で十分休めますし、フレイブリースは巡礼道が整備されてますし、現地でこまめに休む時間をとって移動した方が楽で負担も軽減できるかと・・・。」
ジン「金はどうするんだ、金は!宿に泊まるのもタダじゃないんだぞ!」
シュウ「お二方のご自宅に泊めていただければ、かかりませんよね!」
ジン「!?・・・なるほど、その手があったか!」
ユーリ「僕は絶対に反対ですからね!!」
シュウ「キリカ様、僕は早くあなた様に追いつきたいと思っております。ですが、マイラスはまだまだ財政の厳しい街・・・どうか、故郷の街の精霊使いに慈悲の心を・・・。」
彼はそう言いながら、まるで大精霊に祈るかの如く、手を合わせ拝んだ。私はびっくりして、彼の肩をつかんだ。
キリカ「ちょっと・・・!!そんなことしなくても、お金取る気ないから!!」
シュウ「!?・・・本当ですか!?」
ユーリ「キリカさん!!手っ!!」
ユーリ君は我慢の限界に達してしまったようで、私の手を引っ張り先を歩いた。その後、ジンはシュウ君と話をつけて、私たちの出発に合わせてフレイブリースに渡ることになったそうだ。はあ・・・ジンやシュウ君と一緒なのは楽しいし、喜ばしいことなんだけど、ユーリ君はずっと不機嫌になるんだろうなあ・・・。