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夜。ユーリ君の『盗聴犯の片想い説』はさておき、二人でハルキ君の部屋へ向かった。部屋にはハルキ君とスニケットがいた。

ハルキ「スニケットから大体の事情は聴いた。ルカのキリカ(もう一人のキリカ)に確認してみたけど、神永メルという女子は他校の友達で、一緒にいた男の子は面識がないらしい。」

キリカ「!?・・・。」

二人とも知り合いというわけじゃなかったんだ・・・。じゃあ、盗聴器を仕掛けたあの男の子は一体何者なんだ?

スニケット「・・・で、何者か探るために神永メルにキリカ・・・ああ!ややこしいなあ!・・・ルカのキリカに連絡をとって確認させた。・・・ガキの正体は御旗シュウ。神永メルのであり、あのネバーランドを開発しているゲーム会社の開発者だ。」

ユーリ・キリカ「ええええええええっ!?」

小学生がネバーランドの開発者!?脳ゲーって、そんなに簡単に作れるものなの!?

ユーリ「びっくりですよね!!まさか、メルさんと本当に恋人だったなんて・・・!!」

キリカ「いや、そこびっくりしてないから。」

高校生と小学生のカップルはけっこう珍しいが、脳ゲーの開発に携われるほど頭がいいなら年上じゃないと釣り合いがとれないのかも・・・。

ハルキ「御旗シュウは海外で極秘出産、規制緩和が始まるのに合わせてバルに引っ越してる。

キリカ「ご、極秘出産!?」

ハルキ「彼の両親とされる父母と彼のDNAは一致しない。彼の知能レベルが異常に高いことも考えると・・・デザイナーベイビーで間違いないだろう。」

ユーリ「デザイナー・・・ベイビー・・・?」

スニケット「要するに・・・人造人間だよ。親のエゴで、デザイン(遺伝子操作)されたんだろ。バルでは禁止されてるが、海外では合法な国もある。」

ユーリ「じんぞうにんげん?いでんしそうさ?」

スニケット「!!・・・ああ!面倒くせー!!お前は知らなくていいんだよ!!」

ユーリ「!!・・・。」

知りたいという気持ちと、聞くのが申し訳ない気持ちが相まって、彼は言葉を詰まらせた。私は、彼を安心させるつもりで背中に手を当てた。

キリカ「あとで私から説明するね。」

ユーリ「!!・・・。はい・・・!!」

ユーリ君の満面の笑みを横目に、スニケットは舌打ちしながら続ける。

スニケット「・・・で、お前ら、盗聴されてる間、余計なこと話さなかっただろうな?」

キリカ「!!?・・・。」

頭に嫌な記憶が蘇る。あの後、ユーリ君と今後の対応について話していたような・・・。はっきり覚えてないけど、『ルカ』とか、『もう一人の私』とか話していたような・・・!!

キリカ「どうすればいい!?私たち、一刻も早く戻った方がいい!?」

スニケット「!?・・・しゃべっちまったんだなあ・・・。外でルカの話は控えろってワタリさんから言われてるだろ!」

キリカ「!!・・・。ごめんなさい・・・。」

ホテルまで戻って説明すればよかったんだ。ルカの情報漏えいにつながるって不安がありながら、なんであんな大勢の人がいるところでしゃべっちゃったんんだろう・・・。大きなため息をついて落ち込むと、ユーリ君が私の手を掴んだ。

ユーリ「ハルキさんとスニケットさんの指示に従います。ルカを守るために、僕たちは何をすればいいですか?」

キリカ「!?・・・。」

ユーリ君の手の温度から、二人で前に進もうという気持ちが伝わってくる。落ち込んでても仕方ないよね・・・!!

ハルキ「御旗シュウの狙いは分からないが・・・彼の知能をもってすれば、ルカの情報に行き着くのも時間の問題だ。あいつらは、脳をデジタル化する技術を持ってるし、強硬手段に出ればキリカやユーリを誘拐して、記憶を干渉すれば一発で足がつく。」

キリカ「!!?・・・。」

バレないようにするじゃなくて、バレてると考えるべきってこと?もし、バレてるとしたら、彼は何をする気でいるんだろう?ルカの情報を内密にする代わりに、ルカを使ってゲームを作るとか言い出すのかな?怖いよ・・・。

ユーリ「ワタリさんはなんておっしゃってるんですか?」

ハルキ「・・・・・・・・。取引だ。」

ハルキ君の重たい表情に、ユーリ君と二人して息をのむ。

ハルキ「でも、彼には取引に応じるメリットがない。盗聴内容で脅されれば、太刀打ちできないからね。」

ユーリ「!!・・・それじゃ、取引しようがないんじゃ・・・!!」

ハルキ「ハッタリで行く。」

ユーリ「えっ!?」

ハッタリ?

ハルキ「ワタリさんの調査によると、御旗シュウはあの年でネバーランドのメインプログラマーとして開発に携わっているらしい。・・・とはいえ、子供だ。開発に携わっているのは、自分もそのゲーム(ネバーランド)に興味があるからに違いない。」

ユーリ「???・・・。」

キリカ「ん?どういうこと?」

ハルキ「彼は・・・今でもAIなんじゃないかと思ってる。バルが法律で禁止した今でもね。」

キリカ「!!?・・・。」

ユーリ「なるほど!警備隊に突き出すんですね!!」

ハルキ「!?・・・。突き出してどうするんだよ。第一、まだ開発者のAI切り替えは業務中は認められてる。」

ユーリ「!?・・・そ、そうなんですね・・・。」

スニケット「秘密裏にAI切り替えが行われると、テロが容易になるリスクもあって、政府はAIを検知するシステムの開発を進めている。もしそれが実現されれば、御旗シュウの本体(オリジナル)は現実で生きるしかなくなるってわけだ。」

ユーリ「・・・・・・・・・。」

分からないことが多すぎて、さすがのユーリ君も言葉を詰まらせた。

キリカ「えっと、つまり・・・御旗君がAIである秘密を守る代わりに、私たちの秘密も守ってほしい・・・ってことだよね?」

ハルキ「うーん・・・まあ、そういうことにしておくよ。」

キリカ「でも、もしAIじゃなかったら・・・!!」

ハルキ「・・・・・・・・。その時はその時かな?」

キリカ「えええええーっ!?」

ハルキ「でも、彼はAIだよ。手塩をかけて作り上げた世界に住みたいと思うのは自然なことだと思うからね。」

キリカ「!!?・・・。」

ネバーランドという第2の世界に魅せられた御旗君と、ルカを愛してやまないハルキ君の思いが重なって見えた。同じ境遇だからこそ、見えるものがあるのかもしれない・・・。

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