外出を避けたまま時は過ぎ・・・ユーリ君の誕生日を翌日に控えた夜、思いもよらぬ事態が起こった。なんと御旗君が明日、私とユーリ君に会いたいというのだ。指定された場所は、私も高校に通ってたときにお世話になったアリシアカフェ。ハルキ君は御旗君の連絡を受け、断ろうと思ったが『お互い秘密を抱えている同士、良好な関係を築きませんか?』と言われ、断りづらかったという。御旗君は何を考えているんだろう・・・本当に良好な関係を築きたいだけならいいんだけど・・・。
翌日。センターの職員たちも見張る厳戒態勢の中、私とユーリ君、神永さんと御旗君に会うため、アリシアカフェで待っていた。
ユーリ「あの・・・確認しておきたいことがあるんですけど・・・。」
キリカ「ん?」
ユーリ「僕はあの二人をどう呼べば・・・。」
すぐに思い浮かんだのは神永さんと御旗君だが、名字で呼ぶのに不慣れなユーリ君には名前の方がいいかもしれないと思った。
キリカ「メルさんとシュウ君でいいと思うよ。」
ユーリ「!?・・・名前でもいいんですね!」
キリカ「うん。バルでは親しい間柄だと名前で呼ぶことが多いから、そうした方が仲良くしたいって気持ちが出せるかも。」
ユーリ「そうなんですね!覚えておきます!」
ユーリ君は「メルさん、シュウ君」と復唱して覚えていた。ハルキ君からボロが出ないようにしろと忠告されているので、しっかりやろうという気持ちが強いようだ。ユーリ君は名前呼びで、私がさんづけも変だから、合わせて名前にしようかな・・・。そんなことを考えていると、景気のいい声が耳に入る。
???「お待たせしました!」
キリカ・ユーリ「!!?・・・。」
声の方を見ると、御旗君がサンタクロースのコスプレで手を振っていた。横には困惑の表情を浮かべた神永さんがいる。どうやら神永さんは私たちと会うことを知らなかったようだ。御旗君は神永さんに事情を説明した後、私たちの方へやってきた。私は咄嗟に友好的に見せようと、彼の服装を褒めた。
キリカ「シュウ君、サンタさんすごく似合ってるね!可愛い~!」
シュウ「ありがとうございます!」
確かに可愛いけど、それよりも寒くないのか心配だ。シュウ君のサンタクロースの服装は肩が思いっきり露出している。
ユーリ「サンタ・・・さん・・・?」
ユーリ君が困惑した表情で首を傾げた。独り言のような声だったが、神永さんは冷静に突っ込んできた。
メル「えっ!?サンタ・・・サンタクロースを知らないの!?」
ユーリ「!!?・・・。」
ま、まずい・・・!!
ユーリ「そ、そんなことないですよ!?」
知らないと不自然だと思われかねないと思い、嘘をついていた。動揺しすぎて、イヤリングに触れる癖がでそうになる。私は、つま先でユーリ君の靴を少しだけぶつけた。彼はビクッとして、手を戻す。
シュウ「『ここではない世界』の生活が長期に渡ってるんですよね。その辺は盗聴内容から察しています。」
キリカ・ユーリ「!!?・・・。」
メル「ちょっ!?」
あまりにストレートに言う御旗君を神永さんが止めた。背筋が凍りそうだった。『ここではない世界』という言い回し・・・彼はどこまでの情報を握ってるの?それに、今日の目的は何?震える手を自分で必死に抑えながら、尋ねた。
キリカ「・・・・・・。大事な話って何ですか?」
真剣に言ったつもりだったが、御旗君は余裕そうに笑みを浮かべていた。お互いバレてはいけない秘密を抱えているはずなのに・・・。
シュウ「ええ~!僕たち、手を組んだわけでしょう?純粋にダブルデートを楽しむ気にはなれないんですか?」
キリカ「!!・・・。」
急に話をそらさないでよ!!本当は私たちからもっと情報を引き出そうとしてるんでしょ!?イラッとして眉間にシワを寄せていると、神永さんが間に入った。
メル「キリカ、ごめん!シュウは疑り深いところがあって・・・たぶん、この前の話だけじゃ信用しきれてないんだと思う!ちょっと・・・いや、かなり攻撃的な部分があるけど、悪い人じゃないの!不器用っていうか・・・感情表現が下手っていうのか・・・!!」
シュウ「論点ズレてる。」
メル「!!・・・。」
御旗君に突っ込まれ、神永さんは恥ずかしそうに俯いた。御旗君は信用できないけど・・・彼女の言い分には頷けた。神永さんはこの前の対応からも、気が小さくて情に弱い人に思える。騙されてるのかもしれないけど・・・そんな彼女が御旗君を彼氏にしているのは、彼女しか知らない彼の一面があるから・・・なのかも。私にも、私しか知らないユーリ君の一面があるから・・・。
キリカ「!?・・・うん、わかった。メルがそうやって言うなら。」
メル「ユーリ君もごめんね!」
ユーリ「あっ!それはいいんですけど・・・ダブルデートって何ですか?」
キリカ「・・・・・・・・。」
ユーリ君の発言のおかげでピリピリしたムードは一気に緩む。この人たちはルカの情報を引き出そうとしているのかもしれない。でも、仲良くしたいと言っている以上、その言葉も信じようと思った。疑心暗鬼になりすぎてはいけない・・・信じて歩み寄らなければ、何も進まないのだから・・・。